衆院本会議で立憲民主党の泉健太代表(手前)の質問を聞く岸田文雄首相(奥右)=1月31日
衆院本会議で立憲民主党の泉健太代表(手前)の質問を聞く岸田文雄首相(奥右)=1月31日

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件の実態解明に取り組むというなら、多額の資金が還流された安倍派などの「裏金」議員の国会招致に応じるべきだ。党内の聞き取り調査とその一方的な発表で済ましていては、国民の疑念は晴れまい。

 国会は衆参両院の本会議で、岸田文雄首相の施政方針演説に対する各党の代表質問を実施。野党は、裏金事件を巡る岸田首相の自民党総裁としての対処方針を追及した。

 自民党は首相を本部長とする政治刷新本部で、派閥を集金や人事に関わらない「政策集団」に特化させ、政策集団の政治資金パーティーを全面禁止するなどとした中間報告をまとめた。

 これに対し、立憲民主党の泉健太代表は衆院での代表質問で「実態解明がおろそかでは再発を防ぐことはできない」と指摘。政治資金収支報告書に記載しない裏金を得ていた萩生田光一前政調会長ら安倍派幹部のほか、二階俊博元幹事長について、国会の政治倫理審査会出席を求めた。参院の代表質問では、立民の水岡俊一参院議員会長が、1988年に発覚したリクルート事件などと同様に特別委員会の設置が必要だとして首相の見解をただした。

 安倍派幹部について東京地検特捜部は嫌疑なしとして不起訴処分にしたとはいえ、政治的、道義的責任は免れず、曖昧さが残る裏金の使途を具体的に明らかにする必要がある。90人を超える同派議員側の政治資金収支報告書の訂正を受け、報道各社は幹部の記者会見を要請したが、拒否している。

 岸田首相は「実態把握が重要であると私も思っている」とし、党内で関係議員から聴取する意向を示している。ただ、第三者でない身内の調査で結果を出されても、それが事実か疑問符が付く。

 二階氏は、裏金事件で二階派の元会計責任者が立件された上、約5年間の自民党幹事長在任中、党から「約50億円の政策活動費が渡されている」と野党は問題視している。受領側は使途を政治資金収支報告書に記載する義務はないが、だからといって口をつぐんでいては、国民は納得するまい。

 やはり国会での質疑が不可欠だが、安倍派幹部らの国会招致や特別委の設置に関して首相は「国会で判断する事柄だ」と答弁するにとどまった。

 行政府の長という立場を踏まえた発言との見方はできる。だが、裏金議員への辞職や離党の勧告などの処分について明言を避け、政策活動費の使途説明も否定的だ。これでは実態解明にかける首相の本気度に首をかしげざるを得ない。

 自民党有力者に未公開株が譲渡されたリクルート事件では中曽根康弘元首相が証人喚問され、中曽根氏は離党した。自民党は事件を契機に、派閥解消に向けて党役員や閣僚らの派閥離脱を訴えた政治改革大綱を策定した。裏金に関係した議員の広がりを考えれば、首相や自民党にはリクルート事件以上の対応が求められよう。にもかかわらず、中間報告の内容は大綱より見劣りし、首相が国会での質疑に真摯(しんし)に向き合っていると言いがたい。

 代表質問では、野党が政治資金問題で議員が連帯責任を負う連座制導入などを提案したが、首相は再発防止の具体策に言及しなかった。「ゼロ回答」を続けていては、岸田政治への国民の信頼は低下するばかりだ。