1億2400万人の日本の総人口は、2100年に6300万人へほぼ半減すると推計されている。これを巡り、経済界有志や有識者らでつくる「人口戦略会議」は、8千万人の水準での安定化を目指すべきだとして、具体策を立案・実行する司令塔組織の設置を政府に求める提言をした。
「6300万人」の意味を100年前の日本に戻ることと解すのは過小評価とくぎを刺した。当時は65歳以上が占める割合の高齢化率が4・8%と若い国だったが、2100年は40%の〝超超〟高齢社会だからだ。「日本社会はこれまで通りに続くだろうというのは根拠なき楽観論」として、人口減少がいかに重大な事態を招くかを国民が正確に理解することこそ最優先と強調する。妥当な危機感だ。私たちも直ちに共有したい。
「重大な事態」とは、第一に労働力と消費者が細り、国の成長力や産業競争力が低下して経済社会システムが維持不能になる「果てしない縮小と撤退」。第二は「社会構造の変化」だ。極度の高齢化で社会保障負担が増え、巨額公的債務も加わって財政が極端に悪化する。「地方消滅」も加速度的に進むと警告する。
政府は14年にも経済財政諮問会議の委員会から「50年後も1億人程度」を目指すよう提言された。その後10年間の対策はどうだったか。今回の提言は「待機児童解消などは一定の効果を上げたが、概して単発的・対症療法的」と評価し「少子化に全く歯止めがかかっていない」と総括。さらに「官民の総力をあげて取り組んできたとは言えない」と手厳しい。
では今後取り組むべき目標は何か。第一が2100年までに人口8千万人で安定させることだという。それには、1人の女性が生涯に産む子どもの数である「合計特殊出生率」を、近年の1・3前後から60年までに2・07に回復させる必要がある。極めて高いハードルだが、「決して不可能ではない」とする提言をしっかり受け止めたい。
第二は、人口が減少しても成長力のある社会の構築だとしている。軸となるのは労働生産性向上のための「人への投資」だが、提言は外国人労働者受け入れの総合戦略策定も求めている。人口減少を補うための移民政策は「採るべきではない」とする一方、高度な技能を有する人材は受け入れが必要とする見解は妥当だ。日本の経済社会を維持するため、現実的な布石も打っていくべきだ。
内閣に司令塔として「人口戦略推進本部」をつくるほか、首相の諮問機関で政府に勧告権を持つ有識者審議会設置を提言した。東京一極集中是正へ官民が連携する組織新設も求めた。政府には現在、少子化対策の戦略会議はあるが、人口戦略にまで広げた司令塔はない。民間から求められること自体、政府の危機感不足を象徴していないか。
政府も少子化・人口減少に歯止めをかけなければ経済成長が困難になるとの認識は表明してきた。しかし今回の提言のような強い警鐘を鳴らすことはなかった。
岸田文雄首相は施政方針演説で、「戦略会議の提言の深刻な危機感も踏まえつつ、今政府ができることは全てやる、との構えで全力を挙げる」と述べたが、国民に厳しい未来を示すことを避けていないか。腫れ物に触るような対応ではもう済まない段階にこの国は来ている。