2019年7月の参院選を巡る買収事件で公選法違反の罪に問われ、無罪を主張していた元法相の衆院議員河井克行被告が東京地裁での被告人質問で一転、起訴内容の大半を認め、議員辞職の意向を表明した。広島選挙区から立候補した妻の案里前参院議員を当選させるため、地元議員ら100人に現金計2900万円を渡したとされる。

 公判で「有望な政治家への寄付」などと反論したが、案里前参院議員は4人の買収について共犯として一審東京地裁で有罪判決を受け、今年2月に辞職。この判決で克行被告は買収全体を計画し、主導的な立場にあったと認定された。また一連の証人尋問では94人が買収を受けたと認めた。

 克行被告は辞職について「認めるべきは認めることが、長年にわたり支持していただいた後援者に対する政治家としての責任の取り方と考えるに至った」と述べたが、あまりにも遅すぎたと言わざるを得ない。できるだけ早く、買収事件により混乱を極めた地元に対し案里前議員とともに説明責任を果たし、きちんと謝罪する必要がある。

 さらに収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農相も含め、昨年9月の菅政権発足以降、自民党で「政治とカネ」の問題に絡む3人目の議員辞職となり、政治不信の深まりは深刻だ。自民党は案里前議員側に巨額資金を提供し全面支援した経緯などを公にし、党としての責任を明確にすべきだ。

 被告人質問で克行被告は「2議席を獲得する党の大方針を実現するため、案里の当選を得たいという気持ちが全くなかったとは言えない」と述べた。自民党本部は地元県連の反対を押し切り、改選2議席の広島選挙区で現職候補に加え、案里前議員を擁立。安倍晋三前首相の秘書らが前議員の陣営スタッフとともに地元議員や企業などを回り、支援を呼び掛けた。

 そうした中、党本部は前議員が支部長の政党支部や克行被告の政党支部に合わせて1億5千万円を振り込んだ。現職側への入金とは10倍もの開きがあり、後に自民党内から「あまりに不公平」と批判の声が上がった。

 この1億5千万円のうち1億2千万円は税金が原資の政党交付金で使途の報告が義務付けられている。しかし夫妻の政党支部は、いずれも検察当局によって関係書類を押収されたことを理由に使途を記載せず、報告書を県選挙管理委員会などに提出。買収に使われた疑いが指摘されている。

 克行被告は否定しているが、自身の公判で、党本部からの資金を受領する口座を開設した元会計担当者が陣営スタッフへの現金提供について「党本部からの入金が原資となった」とした供述調書が読み上げられた。資金の一部が買収に使われた可能性を示す供述だ。

 菅義偉首相は「検察当局に押収された関係書類が返還され次第、党の内規に照らして監査を行う」と答弁した。だが、それでは遅い。河井夫妻はもちろん、当時の陣営スタッフらから幅広く事情を聴き、早急に使途を確定させる必要がある。

 併せて案里前議員側への尋常ではない肩入れを巡り、克行被告と近い関係にあった安倍氏や官房長官だった菅氏がどのように関わったかも調査し公表するのが党の責務といえよう。疑惑解明に真剣に取り組まず、幕引きを急ぐばかりでは信頼回復は望むべくもない。