東芝の定時株主総会で、昨年の総会を巡り焦点となっていた永山治取締役会議長と小林伸行監査委員会委員の取締役再任案が否決された。同社の企業統治の在り方に厳しい審判が下されたが、経営陣が経済産業省と一体となり海外の大株主に圧力をかけていたとされる問題の解明はこれからだ。特に経産省は、問題を徹底調査し、丁寧に説明する必要がある。

 東芝が今月10日に公表した外部弁護士の調査報告書は、昨年7月の株主総会の運営が公正でなかったと認定した。東芝と経産省は改正外為法の適用を示唆しながら、筆頭株主の投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントなどに圧力をかけ、株主提案権や議決権の行使を妨害しようとしたとしている。

 報告書の公表を受けて、東芝は監査委員長らを更迭し、取締役選任案から除外するなど異例の対応を取ったが、一部の海外投資家が永山氏らの再任に反対を表明するなど批判がやまず、この日の株主総会を乗り切ることができなかった。

 東芝の監査委員会は過去の調査で、昨年の総会の運営に問題はなかったとの結論を出していた。この監査を担当した委員長らを当初は取締役の再任候補に含めたことなどから、指命委員会委員長を兼務する永山氏らに不信任が突き付けられた。

 問題の核心は、民間企業の東芝が所管官庁の経産省と連携して海外の「物言う株主」の排除に動いたという疑惑だ。日本の企業統治に対する信頼を傷つける恐れがあり、官民一体の「日本株式会社」というかつての日本特殊論の復活を招くかもしれない。

 東芝は原発や半導体などを手掛けており、外為法で安全保障上重要な「コア業種」に指定されている。経産省が関与するのはおかしくないが、株主総会に介入し、株主の権利をないがしろにすることは認められない。報告書に記述された事実があったとすれば、行きすぎではないか。

 しかも、外為法の担当ではない経産省の課長が東芝の役員と頻繁に接触し、株主とのやりとりを伝えていたという。国家公務員法上の守秘義務に違反する可能性が指摘されている。

 永山氏は14日の記者会見で、東芝に企業統治や法令順守の意識が欠如していたことを認め、第三者による調査を実施する意向を示していた。東芝は改めて役員体制を整え、全力で実態の解明に取り組んでほしい。

 ところが、経産省は早々と幕引きを図ろうとしている。梶山弘志経産相は報告書の内容に疑念を示した上で、株主総会への関与は安全保障に関わるケースで「政策として当然のこと」と正当性を主張し、独自調査をしない考えも示した。

 確かに外部調査はエフィッシモが選定した弁護士が行い、報告書が全面的に正しいとは限らない。しかし役員らの聞き取りや電子メールの解析で関係者の発言が詳細に再現されており、相当の信頼性が感じられる。

 経産省は事実関係の詳細について、根拠を挙げて説明する責任がある。そのためには、第三者に調査を委ねて結果を公表するべきだ。疑惑を曖昧なままに済ませるなら、日本の資本市場に対する海外投資家の信頼は大きく揺らぎかねない。それは企業統治の改革を推進してきた経産省の望むところではないだろう。