夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は憲法に反するとして東京都内に住む事実婚の夫婦3組が起こした家事審判を巡る決定で、最高裁大法廷は2015年12月の判決に続いて「合憲」とする判断を示した。「それ以降の社会の変化や国民の意識の変化といった諸事情を踏まえても、判断を変更すべきものとは認められない」と述べた。

 その上で「制度の在り方は国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならない」とした。裁判官15人中4人が違憲とし、うち1人は選択的夫婦別姓制度について「導入で向上する国民の福利が大きいのは明白だ。導入しないのは、あまりにも個人の尊厳をないがしろにしている」と厳しい反対意見を述べている。

 15年判決から5年半が過ぎ、晩婚化や少子化が進む中、働く女性は増え続けている。結婚後の改姓によるアイデンティティーの喪失や、それまで築き上げた個人の信用や評価への影響を訴える声は後を絶たない。行政機関や企業で旧姓使用が広がりを見せているが、戸籍名しか認められない場面も少なくない。

 地方議会では別姓導入や国会審議を求める意見書の採択が相次ぎ、世論調査でも別姓導入賛成が多数を占める。だが司法からボールを投げられた形の国会は動きが鈍い。現に不利益を被る人がいる以上、国会で速やかに議論を進めるべきだ。

 3組の夫婦は別姓による法律婚を目指し「夫は夫の氏、妻は妻の氏を希望します」と付記した婚姻届を居住先の自治体に出して不受理となり、それぞれ家裁に受理を求める家事審判を申し立てた。民法と戸籍法の規定は法の下の平等や婚姻の自由を定める憲法に反すると訴えたが、家裁は申し立てをいずれも却下。高裁も即時抗告を棄却したため、特別抗告した。

 明治期の旧民法は、家族は家長の命令・監督に服する、婚姻により妻は夫の家に入る―などを柱とする「家制度」を導入。特に規定は置かず、夫婦ともに同じ「家」の氏を称する考え方をとった。1947年の改正で「夫または妻の氏を称する」とする現行の規定が設けられ、夫婦同姓の制度は維持された。

 その後、86年に男女雇用機会均等法の施行、99年に男女共同参画社会基本法の制定と、女性の社会進出を支える法整備が続き、96年には法相の諮問機関・法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申した。政府は民法改正案をまとめたが、自民党の保守派が「伝統的家族観が損なわれる」と反対し、提出を断念した。

 最近になり、保守派を代表する安倍晋三前首相から、かつて別姓賛成の立場をとった菅義偉首相に交代したのをきっかけに、党内に別姓推進の議連が発足するなど変化も見え始めている。ただ、保守派の反対は根強い。

 男女共同参画社会基本法に基づき策定された第5次男女共同参画基本計画で、当初案にあった別姓導入に前向きな文言はことごとく削られた。

 自民党の下村博文政調会長は先に、党内で賛否が割れている別姓導入について「今後の方向性は衆院選が終わってから議論していきたい」と述べた。とはいえ、今回の合憲判断をよりどころにして、党内の力関係を見ながら結論の先送りを重ねるのは政党のあるべき姿ではないだろう。問題の根本的解決のために何ができるかを考えたい。