中国電力にとっては、最初の大きなヤマ場を乗り越えたと言っていいだろう。中電が再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句)について、原子力規制委員会が、安全対策が新規制基準に適合していると認める審査書案を了承。2013年12月の申請から7年半で、事実上の審査合格を迎えた。
今後は意見公募(パブリックコメント)などの手続きを経て正式合格となるが、再稼働に向けては「地元同意」というさらに大きなヤマ場が待ち構える。
再稼働の可否判断をする上では、(1)安全性の担保(2)脱炭素社会実現に向けた原発の位置付け(3)核のごみ問題―という三つのポイントが挙げられる。
2011年3月の東京電力福島第1原発事故により、原発の「安全神話」は崩壊。いくら規制委の厳しい審査を通過したと言っても、根強い不信感は簡単には払拭(ふっしょく)できない。安全性をどうやって担保するのか、中電には丁寧な説明が求められる。
周辺住民の一番の関心事は、重大事故が発生した際の避難計画だろう。避難対象は島根原発の30キロ圏内で暮らす島根、鳥取両県の約46万人に及ぶ。「広域避難計画」の実効性が確保されるのかの議論も不可欠だ。
さらに注目されるのが、脱炭素社会の実現に向けた原発の位置付け。政府が掲げる50年の温室効果ガス排出ゼロの実現に向け、菅義偉首相は、その中間点となる30年度に「13年度比46%減」とする目標を表明した。二酸化炭素(CO2)を多く排出する石炭火力の削減と、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの拡大が軸になる。
とはいえ、導入が進む太陽光発電は大規模な適地が減少。期待が高い洋上風力発電も環境影響評価や建設工事に時間がかかり、30年度までの大量導入は難しそうだ。そもそも天候に左右されて発電量が不安定な上、現状では他の発電方法よりコストがかかり電気料金の値上げにもつながるだけに、産業界の理解は簡単には得られそうにない。
そこで取り沙汰されるのが、発電時にCO2を排出しない原発への回帰だが、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定という難題がのしかかったまま。昨年10月、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が手を挙げて、第1段階となる2年程度の文献調査が始まったものの、反対意見は根強く、すんなり進むとは思えない。
こうした課題を判断材料として全て洗い出し、現状や今後の見通しを一つずつ慎重に吟味しなければ、再稼働の可否は到底判断できない。
これまで規制委の審査に合格したのは全国の9原発16基で、このうち5原発9基が再稼働した。ただ、福島第1原発や島根原発と同じ沸騰水型(BWR)で地元同意が得られたのは、東北電力が安全対策工事が完了する見込みの22年度以降の再稼働を目指す女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)のみ。
女川原発の場合、正式合格から地元同意までに約8カ月半かかった。この数字を単純に島根原発に当てはめるわけにはいかないだろう。周辺の経済状況の違いに加え、島根原発は鳥取県側との協議もあり「女川のようなスケジュールでは進まない」と予測する関係者は多い。
焦る必要はない。将来に禍根を残さないためにも、地元経済への影響や今後のエネルギー政策の行方なども踏まえ、じっくりと議論すべきだ。