中国に批判的な民主派系の香港紙、蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報)が廃刊に追い込まれた。香港の民主化運動の高まりを警戒した中国は昨年6月末、香港国家安全維持法(国安法)を施行し、民主派弾圧を強化。香港警察は同紙の幹部を逮捕し、資産を凍結した。

 中国の習近平国家主席は7月1日の共産党創建100年を前に同紙をつぶし、香港統制への決意と自らの権力を見せつけた。香港社会と共産党政権の安定維持を狙った確信的な強硬策により、香港の「報道の自由」は完全に損なわれた。

 自由と民主主義を望んだ香港住民の多くは今、怒りと失意の中で沈黙を強いられている。価値観を共有する日米欧は中国に対して、報道の自由を守り、国際社会に公約した香港の「一国二制度」「高度な自治」を回復するよう改めて強く求めたい。

 蘋果日報は実業家だった黎智英氏が1995年に創刊した。黎氏は89年に中国が民主化運動を武力弾圧した天安門事件に強く反発し、中国と香港の民主化を支持。97年に英植民地、香港が中国に返還された後、多くの香港メディアは中国にすり寄ったが、同紙は中国に批判的な論調を貫いた。

 2019年、黎氏は中国への逃亡犯引き渡しを認める「逃亡犯条例」改正案への反対を訴えた大規模デモを支持し、訪米して当時のペンス米副大統領らと意見交換した。

 香港警察は国安法違反(外国勢力と結託して国の安全に危害を与えた罪)の疑いなどで黎氏や蘋果日報の編集長らを逮捕、黎氏や同紙の資産を凍結した。これは中国政府が主導した露骨な言論弾圧であり、決して容認できない。国際社会は香港問題に関する対話に応じるよう中国に迫るべきだ。

 中国・香港政府は1年前の国安法施行後、黎氏のほか周庭氏ら著名な民主活動家を相次いで拘束して訴追。今年5月には民主派の立候補を阻止する選挙制度見直しも行った。香港政治の「中国化」の総仕上げが蘋果日報つぶしだった。

 加藤勝信官房長官は「言論や報道の自由を大きく後退させる」と重大な懸念を表明したが、中国外務省の報道官は国際社会の批判を「内政干渉だ」と一蹴し「報道の自由は免罪符にならない。反中国的で香港を乱す行為に対して、法を適用しないわけはない」と真っ向から反論した。

 最近、習氏は国際発信力の強化によって「信頼され、愛され、尊敬される中国イメージ」の構築を指示した。しかし香港の民主派弾圧は新疆ウイグル自治区の強制収容とともに国外から強く批判され、中国のイメージは悪化する一方だ。習氏は国益を著しく損なう言行不一致の誤りを悟らなければならない。

 24日付の最後の蘋果日報は過去最多の約100万部が発行され、売り場には長蛇の列ができて売り切れた。掲載した別れのメッセージは「蘋果日報は死んだ。報道の自由は暴政の犠牲となった」とし、リンゴが埋葬され、その種から、より大きく美しいリンゴが育つことに希望を託した。

 中国本土と同じように強権によって自由を抑え込んでも香港の安定と繁栄を長期に維持するのは難しいだろう。中国は国際社会の批判に謙虚に耳を傾け、香港統制を見直し、自由と民主主義の幅を広げていく政策に転換するべきだ。