政府は半導体調達の強化を図るための新たな戦略を決定、具体策の検討に着手した。半導体はその確保能力の巧拙が産業競争力を左右する重要部材だ。さらに防衛や外交政策にも大きく影響を及ぼす「経済安全保障」上の戦略物資でもある。既に世界規模で争奪戦が激化しており、迅速に実効性のある政策を打ち出さなければならない。

 国内生産の増強と同時に、国際供給網のさらなる整備や、半導体の素材や製造装置といった日本の強みも生かした総合的な対策を構築したい。

 主戦場になっているのはスマートフォンなどに使う最先端の「ロジック半導体」だ。受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が茨城県つくば市に設置した研究・開発拠点を足掛かりにして、外国の有力企業の工場誘致なども含む日本国内の開発・生産体制の強化を図る道筋を描いている。

 国内の体制を充実させ、輸入への依存度が下がれば、調達の安定性が向上し、日本の企業も事業計画を立てやすくなる。

 梶山弘志経済産業相が「民間事業支援や1業種支援の枠を超えて国家事業として取り組む」と強調したのは、「経済安保」上の要請もさることながら、世界的な供給不足が続く中で今後、調達環境がさらに悪化しかねないとの産業界の懸念を少しでも解消したいとの思いからだろう。

 国内で日本の需要に十分対応できるだけの生産基盤が整備できるのなら、それに越したことはないが、現状を踏まえると不安も残る。まずは最先端半導体の生産技術の水準だ。人材も含め、世界大手との格差は大きく、追い付くには相当なてこ入れが必要というのが専門家の一致した見方だ。

 さらに、米国などは兆円単位の巨額支援金を投入しているのに対し、日本が技術開発に使える基金は現状では2千億円しかない。「国家事業」だけに、2022年度予算に関連経費が計上される可能性はあるが、財政状況が厳しく、新型コロナウイルス対策が優先される中で、どれほど上積みできるかは不透明だ。

 構造的問題として指摘しなければならないのは、最先端半導体を大量に使うIT製造業の層が日本ではまだ薄い点だ。大量に買ってくれる顧客がいるからこその進出である。有力外資が製造拠点を設置したくなるような魅力は日本市場には乏しいと言わざるを得ない。

 こうした不利な条件を早期に克服できるとは考えにくい。国内体制の強化を目指しながら、国際的な供給網をさらに整備しておくことも現実的な対応ではないだろうか。

 さらに、データを記憶するメモリーなどでは日本には海外勢と渡り合う実力がある。こうした分野を強化しながら、先端半導体については確実に調達できる協力関係を米国など友好国の間で模索したい。

 かつて世界シェア50%を占めた日本の半導体が衰退したのは開発と生産を分業して効率を上げる世界の潮流に乗り遅れたからだ。だが、その間、半導体素材や製造装置の分野では力をつけてきた。材料となるシリコンウエハーでは世界シェアの約6割に達する。

 この強みを生かさない手はない。国の基金を入り口に民間資金も呼び込んで磨きをかけ、世界の半導体産業の中で、さらなる存在感を示したい。