中国全人代の開幕式に臨む習近平国家主席(左)と李強首相=5日、北京の人民大会堂(共同)
中国全人代の開幕式に臨む習近平国家主席(左)と李強首相=5日、北京の人民大会堂(共同)

 中国は外国企業が安心して投資できる環境にあるのか、本当に経済は回復したのか、疑念が拭えない。

 中国の通常国会にあたる全国人民代表大会(全人代=国会)が開幕し、李強首相は政府活動報告で、経済は総じて持ち直したと総括した上、前年同様に5%前後の成長率目標を設定した。

 中国では深刻な不動産不況にある。「家は住むためのもので投機のためではない」という習近平国家主席の発言に端を発した不動産投資規制を受けて、大手不動産企業が多数経営危機に陥った。

 李首相は「不動産政策を改正し、不動産企業の資金需要を支援する」と述べた。政策の誤りを認めた形だが、不動産企業の資金不足で住宅建設が各地で中断している。代金支払い後も住宅の引き渡しを得られない消費者が救済されるのか不明だ。李首相は「低所得者向けの賃貸住宅も増やす」としており、供給過剰が進み、住宅価格がさらに下落する可能性もある。

 2023年、外資企業による対中直接投資は前年比82%も急減した。反スパイ法で外国人の摘発が相次ぐなど政治的なリスクから市場の不信が増し、資本回避が起きた。

 李首相は「外資誘致に力を入れ、製造業参入規制を全面的に撤廃する」と宣言した。ただ同時に「質の高い発展と安全保障」を両立させる考えも示しており、企業が市場調査などでスパイ容疑に問われる不安は変わらないだろう。

 不動産不況や対中投資の落ち込みは、習近平指導部が政治や安全を優先し、先行きが不透明だからだ。「政策不況」とも言える。にもかかわらず、中国政府は全人代閉幕日に30年余り行われてきた首相の内外記者会見について、今年から取りやめると発表した。

 中国は民主主義体制の日本などと異なり、首相は基本的に年に1度、全人代のときにしか内外記者会見をしない。全人代での首相発信は、政府活動報告には表れない政府の方向性や状況認識をつかむ貴重な場だった。

 20年の全人代で、当時の李克強首相は「中国には月収千元(約2万円)の人が6億人いる」と述べて、経済格差の現状を改めて世論に喚起したこともあった。

 会見取りやめの理由は定かではないが、中国の不透明感が増すのは避けられない。

 今回、李強首相は政府活動報告で、習氏の名前を16回も繰り返し、政策面で習氏の経済思想や強軍思想、文化思想を貫徹すると強調した。これほどトップの名前を連呼した活動報告は珍しく、習氏の個人崇拝が強まったことを感じさせる。

 教育面では、小学校から大学まで思想・政治の教育を推進するという。思想とは習氏の思想のことだ。統制は自由な経済活動の妨げとなる。

 中国では、これまでの慣例から昨年秋に開かれると想定されていた、経済政策を重点的に討議する共産党中央委員会第3回総会(3中総会)が現在まで開かれていない。習氏の意向といわれるが、これも市場の不信を招く要因である。

 不動産不況が金融危機の引き金になるとの懸念がある中で、李首相は企業や所管部門への監督・管理を強化して金融危機は生じさせないと強調した。しかし、党の統制を強化するだけでは、市場の信頼は取り戻せないと中国は自覚するべきだ。