米軍普天間飛行場に駐機する米海兵隊MV22オスプレイ=8日、沖縄県宜野湾市
米軍普天間飛行場に駐機する米海兵隊MV22オスプレイ=8日、沖縄県宜野湾市

 米軍は昨年11月に鹿児島県・屋久島沖で起きた墜落事故を受けて停止していた輸送機オスプレイの飛行再開を決定、日本に配備している機体の飛行再開に向けた調整を日本側に申し入れた。米軍は事故を受けて全軍で飛行を停止していたが、事故の際に発生した機器の故障を特定し、構造上の欠陥はなかったとして飛行再開を決めた。

 米側の決定を踏まえて防衛省も、陸上自衛隊に配備しているオスプレイの飛行再開が可能と判断したと発表した。

 ただ、米空軍特殊作戦司令部のこれまでの発表では、機器に故障が起きた原因自体はまだ不明で、分析を継続中だとしている。搭乗員8人が死亡するという日本国内で初めてのオスプレイの死亡事故は、屋久島沖の海上で起きた。これが住宅地の上で起きていたらもっと重大な被害が出ていたのは確実だ。

 故障原因が不明のままオスプレイの飛行を再開するのでは、基地周辺や飛来地域の住民の不安は募るばかりだ。再開は拙速過ぎる。

 日本政府が最優先すべきなのは、国民の命を守ることだ。防衛省は米側の調査が継続中だとして詳細を公表していないが、それで国民の理解が得られるのか。詳細な情報を公開するのが政府の当然の責務だろう。

 陸自配備のオスプレイの飛行再開も、米側の調査情報を踏まえて、独自に慎重に判断すべきだ。

 オスプレイはヘリコプターのように垂直離着陸が可能で、さらに上空で主翼の角度を変えて固定翼機のように飛行できる特殊な構造が特徴だ。

 事故率が特段高いわけではないとも説明されるが、2016年には普天間飛行場(沖縄)所属の海兵隊仕様のMV22が不時着して大破した。昨年8月にはオーストラリアでMV22が墜落して3人が死亡するなど事故が相次いでおり、不安視する声は絶えない。

 屋久島沖で事故を起こしたのは横田基地(東京)所属の空軍仕様のCV22で、飛行中に火を噴くところが目撃されるなど、空中で制御不能になったとみられている。日本国内では、横田基地のほか、普天間飛行場にMV22が配備され、各地を飛行している。自衛隊も陸自仕様のV22を木更津駐屯地(千葉)に暫定配備している。

 米軍は日本国内での事故を受け、昨年12月から全軍で飛行を停止していた。原因が解明されない段階で飛行を再開するのは、停止期間が長期に及んでおり、操縦士の練度がこれ以上低下するのを恐れるためだろう。だが、それよりも重視すべきなのは、住民の安全であることは言うまでもなかろう。

 日米地位協定などに基づき、日本政府には米軍の飛行再開を停止する権限はない。

 だが、日米同盟が国民の信頼に基盤を置く以上、国民が納得する形でなければ再開は認められない。

 事故直後、沖縄県の玉城デニー知事は「事故原因究明まで飛行停止を求める」と発言した。しかし、岸田文雄首相は「事故の実態を確認した上で考える課題だ」と腰が引けた対応をとり、飛行停止の申し入れまでに時間がかかった。

 今回も米側の方針に一方的に従うのではなく、日本国民の不安を取り除く真摯(しんし)な対応が日米両政府に求められる。拙速に飛行を再開すれば、同盟の基盤が損なわれると指摘したい。