日産自動車が部品メーカー36社への支払いを不当に減額し、公正取引委員会から再発防止の勧告を受けた。いったん取り決めた支払額を減らすのは下請法で禁じられている。取引先企業から利益を奪う行為であり、日産の責任は重い。
公取委によると、コスト削減を名目に長年続いてきた商慣習だったという。自動車メーカーを頂点とする巨大な供給網の暗部であり、下請けの賃金が抑えられてきた一因でもある。日産は下請けいじめの慣習が始まった経緯や、長年続けてきた責任の所在を明らかにし、直ちに是正しなければならない。
下請法が減額禁止の対象としているのは資本金3億円以下の企業だ。下請け側との合意があっても、減額は認められない。自動車メーカーと、部品を納入する下請け企業の立場は対等ではなく、下請け側は減額要求を断りにくいためだ。
自動車の下請けの企業規模はさまざまだ。自動車メーカーが部品や素材を調達している企業にコスト削減を求めるのは珍しいことではない。1年間に原価をどれぐらい下げるか、あらかじめ決め、納品価格に反映させる場合もある。
発注側の自動車メーカーは原価が下がることを前提に利益の見通しを立てる。もし原価低減を実現できなければ下請け側に損失が生じる。比較的小規模な部品メーカーほど負担を感じるだろう。
原価低減は本来、省人化や生産効率化のための設備投資や新たな技術の導入、販売量の拡大などが必要だ。生産効率を高める工夫がなければ、人件費にしわ寄せが来る。
立場が弱い部品メーカーから日産が吸い上げた金額は2年間で30億円を超えている。物価高が続き社会的に賃上げが求められる中での出来事であり、到底見過ごすわけにはいかない。
原材料費の値上がり分を価格転嫁しなければ、下請けの賃金水準は上がらない。公取委が日産の社長をあえて名指しし、再発防止を求めたのは当然だ。
厳しい国際競争にさらされる産業だけに、自動車メーカーは供給網全体でコスト削減を迫られてきた。例えばマツダも不当な減額で再発防止策を勧告されたことがある。日産の不当な減額は氷山の一角かもしれない。下請けを圧迫する違法な取り決めや圧力がなかったか、自動車各社に自主的な調査と公表を求めたい。
日産は2024年3月期連結決算で13兆円の売り上げと、3900億円の純利益を見込んでいる。下請けにとっては仰ぎ見るような存在だ。調達部門は下請けに絶大な力を持ち、恐れられている。
公取委や経産省は大企業の下請け取引に目を光らせ、違法行為があれば社名公表や是正勧告をためらうべきではない。
大きな利益を生み、投資家への配当を増やせば、株価は上がり経営者の地位は守られる。しかし品質や安全の検査をごまかしたトヨタ自動車グループや、下請けから利益を奪った日産の姿を見れば、経営層の倫理に疑問を感じざるを得ない。
競争に勝ち抜き、成長力を高めるのはどの会社も目指すことだ。だが、下請けを踏みつけながら積み上げた利益に正当性はない。発注側の都合ばかりを優先し、下請け企業の利益をないがしろにする「強者の論理」に即刻、終止符を打たねばならない。