これで説明責任を果たしたと考えるなら、思い違いも甚だしい。責任逃れの姿勢が目に余り、国会議員としての適格性さえ疑われよう。重大な政治不信を招いた岸田文雄首相や自民党には、真摯(しんし)な取り組みを改めて求めたい。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、参院が衆院に続いて政治倫理審査会を開いた。参院での開催は初めてで、それだけ疑惑の広がり、深刻さを示していると言えよう。
審査の対象になったのは、安倍派の実力者「5人組」の一人である世耕弘成前参院幹事長のほか、西田昌司元政調会長代理、橋本聖子元五輪相の3人。このうち発言が注目されたのは世耕氏だった。
政治資金収支報告書に記載しなかった安倍派のパーティー券販売のノルマ超過分について、安倍晋三元首相が2022年4月、幹部との会合で議員側への現金での還流取りやめを指示した。「不透明で疑義を生じかねない」というのが理由だったが、安倍氏死去後の同年8月にあった幹部会合を経て還流が復活した。世耕氏は両会合に、塩谷立元文部科学相や西村康稔前経済産業相らとともに参加していた。
安倍氏の指示段階で違法性を認識していたと疑われるのに、還流復活を誰が、いつ決めたのか。衆院政倫審での塩谷、西村両氏の説明は曖昧だったり、齟(そ)齬(ご)があったりしたため、世耕氏への質疑で焦点になった。
しかし、世耕氏は「分からない。私自身、知りたい」などと述べ、当事者意識の欠如をあらわにした。幹部会でノルマ超過分を議員個人のパーティー券購入費に充てる案が出たことは認めたが、誰の提案だったかは「記憶にない」を連発した。
それまでの還流方式が法に触れると考えたからこそ、代替案が示されたのではないか。塩谷、西村両氏もそうだったが、提案者を特定すれば、自民党内外から批判されることを危惧したと受け止められても仕方あるまい。
「記憶にないことを言えと言われてもお答えできない」と主張したが、2年もたっていない少人数の会合である。国会議員としての責任の重さを自覚した誠実な態度とは到底言えない。
安倍派は、参院選の年に改選対象の議員側へパーティー券の販売ノルマ分と超過分の合計額全てを還流させていた。参院を取り仕切る世耕氏が把握していてしかるべきだが、「私には何の相談もなく、勝手に決まっていた」という。
ほかの安倍派幹部とも共通する還流資金の不記載を「一切知らなかった」という釈明と同様、にわかに信じ難い発言である。これでは岸田首相がしばしば言及する「信なくば立たず」の政治信条が空疎に響くだけである。
世耕氏の後には西田、橋本両氏に対する質疑が行われたが、国民が疑問を持つ裏金事件の実態解明は進まなかった。「5人組」に相当する派閥幹部ではなく、それもやむを得ないが、安倍派幹部の説明責任について「全く果たされていない」と西田氏が指摘したのは、国民の声を代弁したと言っていい。
来週は衆院で安倍派の会長代理を務めた下村博文元文科相が出席して政倫審が開かれる。下村氏もほかの幹部と大差ない発言にとどまれば、偽証罪に問われる証人喚問の必要性も出てくるだろう。