ロシア大統領選でプーチン氏が予想通り〝圧倒的な支持〟を獲得し、通算5期目の当選を決めたと発表された。
ロシアのウクライナ侵略が続く中で行われた「選挙」は自由でも公正でもなく、独裁者が権力の座に居座ることを自ら正当化する「儀式」に過ぎない。さらに6年間続投するプーチン大統領は正統性を欠くと言わざるを得ない。核大国ロシアの独裁体制の長期化は世界の大きな不安定要因だ。
大統領選では、ウクライナ戦争反対を主張した候補らが中央選管に排除され、プーチン氏のほか体制に迎合する3候補のみが出馬。まともな討論はなかった。公務員や国営・政府系企業の社員、大学生らに投票を強要する組織的圧力が各地で加えられたことが判明。選管の開票作業にも不正疑惑が出ており、プーチン氏の得票率「87%超」に信ぴょう性はない。
投票は、ロシアが一方的に「新たな領土」として併合したウクライナの東部、南部の4州でも強行された。占領地のウクライナ国民にロシア大統領選への投票を強制したことは、選挙の合法性を否定するものだ。戦闘が続くこれら地域では正確な有権者数すら把握できていなかった。
「ウクライナはロシアの歴史的領土」と主張するプーチン氏は、「国民の信任」を錦の御旗にして戦争を継続する構えだ。日米欧など先進民主主義諸国と対立する中で、独裁体制を維持していくには、ロシア社会を一層締め付けて戦争を継続する以外にない。
ロシア軍の最高司令官であるプーチン氏には、占拠したウクライナ領から子どもを連れ去った容疑で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ている。さらに市民多数の殺害、民間施設攻撃など戦争犯罪の全面的な責任を問うべきだ。
ソ連で1980年代後半に始まった民主改革を引き継ぎ、新生ロシアで育まれてきた脆弱(ぜいじゃく)な民主制度は、ロシアの最高実力者として24年間も君臨するプーチン氏により完全に破壊された。
新型コロナウイルス禍の20年7月に憲法改正を強行、大統領任期に例外規定を設け、自らの2期12年の続投を可能にした。22年2月のウクライナ侵攻後は独立メディア、民主勢力を徹底弾圧し、恐怖と個人崇拝が支配する独裁体制を築き上げた。現在ロシアで投獄されている政治犯の数はソ連末期ブレジネフ時代の水準を上回っている。
大統領選の期間中にプーチン氏の最大の政敵だった反政府活動家ナワリヌイ氏が獄中死したことで、戦争と独裁に反対する市民らが抗議行動を起こし、その存在をアピールした。しかしナワリヌイの死で民主勢力は求心力を失っており、ロシアの民主体制回復の展望は暗い。
プーチン氏は核兵器使用をほのめかして米欧を威嚇している。米欧のウクライナ支援が中途半端なのは、ロシアを刺激して核攻撃を誘発することを恐れるからだ。日米欧は一致してプーチン氏の暴走を抑え込まなければならない。
ただ、11月の米大統領選で「米国の国益第一」を主張する共和党のトランプ前大統領が勝利した場合、日米欧の共同歩調は困難になりそうだ。北方領土問題解決を最優先してきた日本は、安全保障の観点から対ロシア戦略を抜本的に見直す必要がある。