巨額の裏金事件が深刻な政治不信をもたらしたことへの自覚や反省は抜け落ち、実態の解明に努力しようという責任感も見当たらない。これが憲政史上最長政権を支えた自民党最大派閥の、保身ばかりが際立つ嘆かわしい「正体」だった。
衆参両院の政治倫理審査会は安倍派幹部らの弁明と質疑を終えた。しかし政治資金収支報告書不記載などの会計処理への関与を否定し、違法性の認識もなかったと説明。2022年にいったんは派閥からの還流取りやめを決めながら、再開した経緯も「知らない」と口をそろえ、核心部分の解明には至らなかった。自民党内ですら「疑問が残る」との声が上がっており、世論は到底納得しないだろう。
のらりくらりとかわす姿を許しては、いつまでたっても、真相には近づかない。野党が要求するように、偽証罪も適用される証人喚問に踏み込む時だ。安倍派幹部に加え、さまざまな幹部協議に同席していた会計責任者の同派事務局長の証言も求めたい。
政倫審でも明らかになったように、個々の発言の食い違いをただすためには一堂に集める形式も検討できないか。還流システムを「長年の慣行」と言うのなら、前身の森派会長を務めた森喜朗元首相からも事情を聴くことが不可欠だ。
政倫審の焦点の一つは、還流を復活させたとされる22年8月の派閥幹部協議だ。ところが、出席メンバーの塩谷立、下村博文、西村康稔、世耕弘成各氏は意思決定へのかかわりを否定。世耕氏は「誰が決めたのか私自身知りたい」と半ば開き直ったかのように言い放った。
下村氏は1月31日の記者会見で、還流資金を「個人パーティーに上乗せして収支報告書を合法的に出す案」がこの協議で話し合われたと明らかにしていた。「合法的」と言うならば、それまでの会計処理の「違法性」を認識していたと考えるのが自然ではないか。政倫審でそれを否定するのはにわかに信じ難い。
また自民党の参院議員会長も務めた橋本聖子氏は、自身の派閥パーティー券の販売ノルマを知らないと平然と語った。ろくに調査もせずに、何のために審査を申し出たのか。西田昌司参院議員が政倫審で「派閥の幹部はそのとき知らなくても報告する義務がある」と批判したのも当然だ。
今回おぼろげながら浮かび上がったのは、還流システムの動機だ。高木毅氏は、自前でパーティーを開けない若手議員らを支援するために始まったのだろうと述べた。つまり派閥パーティーの名を借りてカネを集めさせる手法なら、堂々と収支報告書に記載すればいい。
自民党では派閥の役割として若手議員の教育・研修機能が挙げられてきたが、これでは違法行為を指南してきたと言われても仕方あるまい。
野党は資金還流を受けた残る70人余りの政倫審出席も求めている。本来なら一人ずつ弁明させるのが筋とはいえ、物理的に難しければ、質問書を送り、文書で回答してもらう形も検討すべきではないか。少なくとも、自民党の「聞き取り調査に関する報告書」に匿名で記された説明や意見を実名化する必要があろう。それが有権者の判断材料になるからだ。
自民党が党大会で掲げた「解体的な出直し」の第一歩が、裏金事件の解明である。