岸田文雄首相とバイデン米大統領はワシントンで開かれた首脳会談で、覇権主義的な中国に対し緊密に連携する考えで一致した。日米同盟の抑止力を高めるため自衛隊と米軍の相互運用を向上させる方針でも合意した。共同記者会見に臨んだ首相は日米同盟に関し「今こそグローバルなパートナーとして真価を発揮すべき時だ」と述べ、世界の課題に共に対処すると強調した。
従来の同盟関係は日米安全保障条約に基づき米軍を「矛」、自衛隊を「盾」とする役割分担が主体だった。防衛力の一体運用が進み、日本も矛の一翼を担うとなれば、同盟の質的な変容は避けられない。
戦後日本が国際社会に示してきた平和国家の歩みに照らし、理解を得られるのか。国民や国会への説明責任は必須だ。慎重な検討を求めたい。
双方は日米両司令部の指揮・統制機能を見直す。日本が陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を2024年度末に発足させるのに伴い、米側は在日米軍司令部(東京・横田基地)の機能を強化。共同訓練の企画立案や実動部隊の限定的な指揮権を付与する案を検討している。これについてバイデン氏は会見で「切れ目なく効果的に協力する」と強調した。
現状で施設管理などに限定されている横田基地が部隊指揮権を持てば有事の際に標的にされる恐れが強まる。人口が密集し、国会などの中枢機能が集まる首都圏で高まるリスクへの備えは十分考慮されたのだろうか。質量共に圧倒的な米軍の指揮権のもとで自衛隊の独立性が担保されるかどうかもおぼつかない。日本の憲法が禁じる他国軍の武力行使との一体化が加速しかねない。
日米は防衛装備品の共同開発を促進する。両当局者による協議の場を設置、防衛産業育成につなげる方針だ。日本の民間企業が在日米海軍の艦船の大規模補修に従事する仕組みも整える。
ただ日本は殺傷兵器である次期戦闘機の第三国輸出解禁を決めたばかりだ。国際紛争を助長する恐れはないか、重ねて注視しなければならない。
岸田首相は、安倍晋三元首相以来9年ぶりの国賓待遇で招かれた。バイデン氏が11月の大統領選を控えたタイミングとなった。会談後に発表された共同声明では、宇宙や先端技術など幅広い分野の協力が盛り込まれた。
中国の海洋進出をにらんで、日米にフィリピンも加えた3カ国の連携を強化。米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」と日本の防衛技術協力も推進する。半導体をはじめ重要物資のサプライチェーン(供給網)構築などの経済安全保障協力も進める。これも中国包囲網の一環だ。
唯一の同盟国である米国との共同歩調を日本の外交基軸とする方針に異論はない。ただ抑止力は「もろ刃の剣」であり、逆に緊張を招くことがある。実際、中国政府はAUKUSと日本の協力に対し「軍備競争を激化させる」と即座に反発した。
米側はしたたかだ。日米会談の直前に中国側と政治レベルの対話を重ね、周到に地ならしした。首相は会見で中国を名指しで批判する一方、「対話を継続する」とも述べた。実践を望む。気が付いたら米中が接近し日本だけが取り残されていたとの事態は避けたい。