「銭湯のススメ」で作成したグッズ
「銭湯のススメ」で作成したグッズ

 ネットフリックス、週刊少年ジャンプ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)ーなどなど過去の事例を挙げればきりがありません。「ビームス=コラボレーション」というイメージを持っている人も多いと思います。それぐらい毎年数多くの魅力的なコラボ企画が生まれています。

 2019年には「銭湯のススメ」という企画を始めました。コラボの相手は同年に創業110年を迎えた牛乳石鹸共進社(大阪市)です。
 

ビームスのコーポレートカラーであるオレンジ色で別注した「橙箱」

 当時、東京都の浴場組合に加盟する銭湯は約550軒。しかし、後継者不足に加え、浴場の壁面に絵(富士山などが有名ですが)を描く銭湯絵師も数人まで減っている状況でした。何百年と続き、愛されてきた文化が、もしかすると将来、なくなってしまう可能性もある。若者が銭湯に対し、抱いている「古い」といったイメージを刷新するためにキャンペーンを展開しました。

 人気イラストレーターの長場雄さんを起用し、牛のイラストが象徴的な牛乳石鹸の箱をビームスのコーポレートカラーであるオレンジ色で別注した「橙箱」にしました。Tシャツ、キャップ、洗面器、タオルなどさまざまなオリジナルグッズを作成、販売しました。
 

「銭湯のススメ」で作成したグッズ
 

 長場さんにはコラボ企画のためにオリジナルのれんも描き下ろしてもらい、都内の銭湯約550軒をジャックしました。オリジナルグッズが当たるスタンプラリーや銭湯紹介の冊子配布、新宿の「ビームス ジャパン」でのポップアップストア開催などの仕掛けを用意。東上野にある銭湯「寿湯」では、銭湯絵師の田中みずきさんに特別な銭湯画を描いていただき、トークイベントを開催しました。
 

「銭湯のススメ」で作成したTシャツ

 アーティストに参加してもらうことで、それまで銭湯と接点がなかった世代に興味を持ってもらうことに成功しました。銭湯のススメは現在も続き、大阪市内の銭湯にも広がっています。銭湯そのものの活性化だけでなく、雇用や文化の継承といったことまで広げることが狙いです。
 

「銭湯のススメ」で作成した風呂桶

 コラボを行う際の精神は「新しい答え」。商品を一緒につくる別注とはまた違い、両者で神髄に迫っていく作業です。先方から依頼があることもあれば、こちらから持ちかけることもあります。同時にA社、B社からそれぞれ相談を持ちかけられれば、一緒に掛け合わせするということもあります。

 ビジネスは「競争」ですが、コラボで目指すのは「共創」です。私も含めて、いろいろな人とのつながりを介して新たなものを生み出そうとしています。ビームスの真骨頂ですし、業界内でも話題になる。これまで接地点がなかった双方のファンに刺さるきっかけにもなります。
 

「銭湯のススメ」で作成したタオル

 ビームスの社内には「敏腕プロデューサー」や「名プランナー」と呼ばれるような人が多くいますが、基本的にはコラボする相手を交えて全員でアイデアのキャッチボールをしていきます。大切にしているのは、圧倒的な「消費者の目線」です。どうしても情報が川上→川下で、企業側の独りよがりになってしまいがちな商品開発の流れを逆に見ることができる人材が必要で、それまでファンではなかった人たちにリーチする鍵はそこにあります。


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 土井地博(どいじ・ひろし) ビームス執行役員シニアクリエイティブディレクター兼ディレクターズバンク本部長 出雲観光大使
 1977年生まれ、出雲市多伎町出身。ショップスタッフを経て、20年以上BEAMSグループの宣伝PR業務を行い、新たなビジネスモデルを立ち上げる。ビームス初の合弁会社となるクリエイティブエージェンシーであるビーアットの代表取締役社長を2023年2月まで務める。こうげい社・旧白洲次郎 正子邸である「武相荘」のクリエイティブディレクターのほか、ラジオパーソナリティ、大学非常勤講師、司会業、各講演など仕事は多岐にわたる。