10日、韓国総選挙でソウルの投票所に並ぶ有権者(共同)
10日、韓国総選挙でソウルの投票所に並ぶ有権者(共同)

 竹島(島根県隠岐の島町、韓国名・独島(トクト))の領有権を巡って対立関係にある日韓両国だが、共通する課題は意外に多い。

 代表的なのが急速に進む少子化。日本の厚生労働省が2月末に発表した人口動態統計の速報値(外国人らを含む)を見ると、2023年に生まれた赤ちゃんの数(出生数)は75万8631人で過去最少を更新。初めて80万人を割った22年から5・1%減も減り、少子化が加速した。

 厚労省の国立社会保障・人口問題研究所は将来推計人口で、76万人を割るのは35年と見込んでいたが、実際は12年も早まった計算。女性1人が生涯に産む子どもの数を示す22年の合計特殊出生率は1・26だった。

 韓国はもっと深刻だ。23年の出生率は0・72。既に世界最低水準だった22年の0・78をさらに下回り、過去最低を更新。出生数も前年比7・7%減の約23万人で、直近8年間でほぼ半減した。信じがたい急落ぶりだ。

 韓国政府は06年以降、5年ごとに少子化対策の基本計画を策定。06~21年に出産・育児支援などに計280兆ウォン(約31兆円)を投入したが、結果は空振りに終わっている。

 住宅価格の高騰、雇用不安に伴う晩婚化、過熱する受験競争を背景とした教育費負担の膨張…。原因を挙げれば、きりがない。必然的に不満は政権与党に向くことになる。

 今月10日に投開票された韓国国会300議席を争う総選挙の投票率は67・0%で、1996年の総選挙以降で最高になったという。結果は与党が大敗。尹(ユン)錫悦(ソンニョル)大統領の家族の不正疑惑や身びいきな人事に対する国民の反発に加え、食品の価格高騰が与党に不利に働いたとされる。

 韓国では選挙に対する有権者の意識が高い。今回の投票率もそうだが、2008年の総選挙をソウルで取材し、実感した。

 大音量のテンポの速い音楽に乗り、政党カラーのおそろいの服を着て踊る若者。それに呼応するかのように群衆が「イボン(2番)、イボン」と政党番号を叫んでいた。まるでカーニバルのよう。広報ビラを受け取った20代会社員は「何としても物価の安定を」と語気を強めた。

 それに比べ、日本の国政選挙は冷え込んでいる。21年10月の衆院選小選挙区の投票率は55・93%。前回(17年10月)より2・25ポイントアップしたとはいえ、戦後3番目の低さだった。

 抱える課題に大きな違いはないのに、韓国に比べて盛り上がりに欠けるのは、政治に対する期待感が薄れているからではないか。だからといって政治を諦めてしまっては、われわれの暮らしは何も変わらない。

 細田博之前衆院議長の死去に伴う衆院島根1区補欠選挙が、あす28日に投開票される。「政治とカネ」の問題が直撃した東京15区と長崎3区を加えた3補選の最大の争点は、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で増幅した政治不信解消への取り組み。唯一、与野党一騎打ちの構図となった島根1区の結果は、岸田政権の命運を左右すると全国の注目を集めている。

 一方で、地域の未来を託す新たな代表者を決める重要な選挙だ。韓国の有権者のように、政治に対して意思表示できる数少ない機会でもある。地域の未来を私たちの手で切り開くため、大事な一票を投じよう。