宇宙での研究、開発 一手に
宇宙(うちゅう)服を着てふわふわ浮(う)かぶ様子を想像(そうぞう)する人が多い宇宙飛行士(ひこうし)。宇宙では実際(じっさい)にどんな仕事をしているのでしょう。
実験の「代行人」
宇宙飛行士は、地上の研究者の思いを受け、重力のある場所ではできない実験を多く手がける、いわば実験の「代行人」です。無重力状態(じょうたい)での生物の反応(はんのう)や、宇宙のなぞを解(と)く暗黒物質(ぶっしつ)の検出(けんしゅつ)、地上で作れない新素材(そざい)の開発など、内容(ないよう)はさまざま。学問の枠(わく)にとらわれないセンスとやりとげるタフさが求められます。
3月に国際(こくさい)宇宙ステーション(ISS(アイエスエス))から地球に帰ってきた古川聡(ふるかわさとし)さん(60)は、2011年に宇宙に行った際(さい)、「宇宙空間で抹茶(まっちゃ)をたてると抹茶の粉(こな)と水はどう混(ま)ざるのか」というユニークな実験もこなしました。
生活の場であるISSを万全な状態(じょうたい)に保(たも)つのも大事な仕事です。修理(しゅうり)はもちろん、無人補給船(ほきゅうせん)とISSをつなぐドッキングや、補給船が運んだ生活用品の荷おろし、貴重(きちょう)な水分をうまく使うために、尿(にょう)を飲み水にリサイクルできるシステムの更新(こうしん)なども行います。二刀流では足りませんね。
規則正しい生活
宇宙にいられる時間は限(かぎ)られ、地上のチームと連絡(れんらく)を取りながら分刻(ふんきざ)みのスケジュールで過(す)ごします。でも、24時間働くわけではありません。土日は休みで、半年に4日間の祝日があります。睡眠(すいみん)時間は8時間半、朝昼夕の食事は1時間ずつ、そして体力維持(いじ)のためのエクササイズもたっぷり2時間半用意されているんですよ。みなさんと宇宙飛行士、どちらが規則(きそく)正しい生活を送っているでしょうか?
(本田隆行(ほんだたかゆき)・サイエンスコミュニケーター)
ほんだ・たかゆき 鳥取県三朝(みささ)町出身で、1982年生まれの「科学とあなたをつなぐ人」。神戸(こうべ)大学大学院時代の専門(せんもん)は地球惑星(わくせい)科学でした。日本科学未来館勤務(きんむ)を経(へ)て国内でもめずらしいプロのサイエンスコミュニケーターとして活動中。
語学、操縦、地質学… はば広い訓練が必要
2023年に宇宙航空(こうくう)研究開発機構(きこう)(JAXA(ジャクサ))の宇宙飛行士候補(こうほ)に選ばれた諏訪理(すわまこと)さん(47)と米田(よねだ)あゆさん(29)は、国際(こくさい)協力で進む月の調査(ちょうさ)「アルテミス計画」で、日本人として初めて月に行ける可能性(かのうせい)が高まっています。
宇宙飛行士になる前には、体力トレーニングや英語とロシア語の勉強、飛行機の操縦(そうじゅう)、遭難(そうなん)時のサバイバルなど、多くの訓練が待っています。
宇宙飛行士に認定(にんてい)された後の訓練には、近年新たに地層(ちそう)や岩石を研究する地質学(ちしつがく)に関するものが加わりました。アメリカ航空宇宙局(きょく)(NASA(ナサ))は月や火星の有人探査(たんさ)ミッションを予定していて、地球以外の星に降(お)り立った時、その場所を科学的に観察したり、岩石を採取(さいしゅ)したりする「眼力(がんりき)」を養う必要があるためです。
21年に日本で行われた地質学の訓練には、日本人宇宙飛行士の油井亀美也(ゆいきみや)さん(54)と大西卓哉(おおにしたくや)さん(48)、金井宣茂(かないのりしげ)さん(47)の3人が、そして23年のヨーロッパでの訓練には大西さんが参加しました。