地域の公共交通を維持するためには避けて通れぬ道だろう。
松江市内を走る一畑バスと市交通局のバス路線を巡り、市と市内の交通関係者でつくる市公共交通利用促進市民会議(会長・加藤博和米子高専教授)が共同経営計画の策定に向けて検討に乗り出す。近く有識者部会を立ち上げ、策定の必要性や概要について協議を始めるという。
全国的な傾向ではあるが、松江市内でもバス運転手の不足が深刻化している。市交通局は運転手の残業規制強化に伴う「2024年問題」も踏まえ、4月1日のダイヤ改正で平日の378便を308便に、土日祝日の273便を247便にそれぞれ減便。一畑バスも10月から「御津線」「大東線」「荒島線」の3路線の廃止と、「マリンプラザ線」の大幅縮小を予定し、市が通勤や通学の時間帯に配慮したコミュニティーバスの新設などで対応する。
運転手確保には給与など処遇面の改善が不可欠だが、財政的な問題もあり、容易ではない。それ以外で迅速に取り組めそうなのが効率化の追求だろう。
一畑バスと市交通局の共同経営計画は、市内で重複する路線の一本化や、市周辺部と中心部といった地域別の運行のすみ分けなどを想定。運行回数や運行距離を踏まえて事業者間で収入を分配する「運賃プール」の在り方も検討するという。
実現すれば事業者の経営安定につながる。十分な運行回数を確保できれば利用者の利便性向上にも結びつくだろう。
複数事業者によるバス路線の共同経営は独占禁止法で規制されているが、事業者同士が計画を策定して国土交通省に認められると同法の適用対象から除外される。全国では広島、岡山、熊本、長崎各市などで事業計画が認可されている。
この中で注目したいのが広島市の動向だ。市と広島県内のバス事業者8社が4月、路線バスの共同運営を目指す組織「バス協調・共創プラットフォームひろしま」を立ち上げた。官民一体で連携して、効率的な路線の再編、電気自動車(EV)のバス車両や充電設備の共有を目指す「広島モデル」。人口減少や運転手不足といった課題解決につながるかどうかが注目される。
約120万人が暮らす広島市も人口は減少傾向にある。新型コロナウイルス禍を機にバス利用者が減少。他産業と比べ低水準な賃金や、責任の重さと不規則な勤務体系も足かせとなり、運転手不足も深刻に。8社の社長と松井一実市長が集まった3月の覚書締結式で、広島電鉄の椋田昌夫社長は「いかに将来に向けて(路線を)残していくか、利便性を維持して将来へ安定した経営ができるか、もう単独では難しい」と語ったという。
広島ゆかりの戦国武将・毛利元就が唱えた「三本の矢」ならぬ、〝八本の矢〟で逆境を乗り越えようという発想。市が調整役を担い、中心部の重複路線の解消など、異なる会社間で区間を調整する路線再編に取り組むほか、EVバスや充電設備を組織で保有し、各社がそれぞれの事業で使えるようにする。
各社の収支が改善すれば、運転手の処遇改善にもつながってくるだろう。まだ緒に就いたばかりの「広島モデル」だが、可能性は秘めている。松江の取り組みの参考になるはずだ。