三菱電機が、鉄道車両向け空調機器について長年不正な検査をしてきたことが発覚した。ブレーキなどに使う空気圧縮機でも不正検査をしていたという。同社や子会社では近年、不適切な製品や労務の問題が相次いだにもかかわらず、企業統治の不全が改まっていなかったと言えよう。顧客や社会に対する信頼回復の道は険しい。

 鉄道車両向け空調機器は長崎製作所(長崎県時津町)で製造・検査をしている。同社によると冷暖房の制御性能や消費電力について、顧客の指定する内容の検査をせず架空のデータを記入していた。不正は1985年ごろから少なくとも35年以上続いていた疑いがあるという。

 さらに適正に検査したように偽装するため、架空の検査データを自動で作成するプログラムを使用していた。不正行為の常態化を裏付けるもので、耳を疑う無法ぶりだと言われて仕方あるまい。

 同社は「安全性に問題はない」とするが、検査不正の可能性のある空調機器は累計約8万4600台。JR東日本で新幹線をはじめ約9800台が導入されるなど、顧客は全国に広がる。

 一方、ドア開閉やブレーキに使う空気圧縮機でも検査の不正が判明。不正の可能性があるのは約千台に上るという。

 三菱電機は2日、記者会見を開き、杉山武史社長が謝罪した上で辞任する意向を表明。原因の調査結果と再発防止策を9月に公表するとした。

 企業の対応として当然だが、車両のブレーキなどは乗客の安全に直結する。同社は顧客だけでなく、社会一般に対しても安心に足る丁寧な情報発信をすべきだ。

 問題発覚を受けて政府は、経済産業省が原因の調査などを指示。加藤勝信官房長官は「政府としても機動的に対応していく」と述べた。不正による影響の広がりがあり得るだけに、事態の推移に警戒を怠らないでもらいたい。

 三菱電機では近年、不祥事や問題が相次いでいた。2018年には子会社で契約仕様に合わないゴム製品を出荷していたことが判明。この問題などをきっかけに国内の全事業所と子会社121社を対象として「全社再点検」を実施したが、今回の不正は見落とされた。

 労務面でも過労やパワーハラスメントを苦にした社員の自殺が続き労災に認定されたほか、サイバー攻撃による情報漏えいにも遭ったが積極的に公表してこなかった。

 今回の検査不正については問題が発覚する直前の6月29日に株主総会を開きながら、説明していなかった。株主軽視にとどまらず、経営者の責任感の欠如、企業統治に対する意識の低さを指摘せざるを得まい。

 国内ではここ数年、鉄鋼製品や油圧機器のメーカーによる不正が続き「ものづくり大国ニッポン」を損なってきた。今回の三菱電機の問題が日本製品に対する内外の信用を一層揺るがすことにならないか恐れる。

 岩崎弥太郎の海運事業から始まった三菱グループは、20年に創業150年を迎えた。金融や商社などが堅調な一方で、中核メーカーである三菱重工業は造船や航空機事業の不振にあえいでいる。日本を代表する「三菱」の看板にあぐらをかき、事業や企業統治の改革を怠ることがなかったか―。三菱電機の経営陣も問われている。