梅雨前線の影響によって記録的な大雨に見舞われた静岡県熱海市で、大規模な土石流が発生した。山の上から約2キロ先の港まで多くの家屋や電柱、車などを次々にのみ込みながら、すさまじい勢いで斜面を下り、あたりの景色を一変させた。流失家屋は少なくとも130棟に上り、4人が死亡。住民らの所在・安否確認が続いている。

 現場周辺は土砂災害警戒区域。大雨で地盤が緩み、土石流が複数回発生したとみられる。2日の午前中、市は5段階ある避難情報でレベル3の「高齢者等避難」を発表した。しかし対象地域の全住民に緊急避難を呼び掛けるレベル4の「避難指示」を出さないうちに3日午前、被害が出た。

 その後、レベル5の「緊急安全確保」に引き上げた。警戒レベル据え置きを巡り、市は気象庁の予報から2日が降水量のピークと見込んでいたと説明。もっと早く引き上げるべきではなかったかとの問いに「結果として災害が起きており、全くないとは言えない」とし、災害時の対応の難しさをにじませた。

 断続的に雨が降り続く中、まず二次被害を警戒しながら、生存率に大きく影響する発生後72時間の救助に全力を挙げなければならない。さらに今後、避難情報で迫る危険が住民らにしっかり伝わったのかを検証し、より簡潔で避難に結び付く情報発信を模索する必要がある。

 気象庁によると、熱海市の観測地点で3日までの72時間降水量は7月の観測史上最大。現地は近くの富士山や箱根山などの噴出物が積もる火山性の地盤で、もろい上に水をためやすい。そこへ比較的長い期間にわたり雨が降り、土石流の引き金になったとみられる。

 発生直後、ツイッターに数多くの動画が投稿され、押し寄せた黒い土砂が「ゴー」とごう音を上げ、おびただしい量のがれきとともに斜面を下る状況や、それを背に路上で活動中の消防隊員とみられる人が慌てて逃げる姿などが写っていた。

 熱海市には2日、気象台から「土砂災害警戒区域などでは命に危険が及ぶ土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況」という警戒情報が繰り返し出され、3日午前には神奈川県平塚市でレベル5の避難情報・緊急安全確保が全国で初めて発令された。熱海市によるレベル5の発令は2例目となった。

 近年、梅雨が終わりに近づくこの時期、豪雨・長雨の災害が相次いでいる。関連死も含め40人以上が亡くなった2017年の九州北部豪雨、300人が犠牲になった18年の西日本豪雨、80人以上の死者を出した昨年の熊本県を中心とする豪雨―などが記憶に新しい。

 政府は今年5月、市区町村が出す避難勧告を廃止して避難指示に一本化し、5段階の警戒レベルも改定した。避難情報に勧告と指示があると、避難開始のタイミングが分かりにくいとの声があったためだ。ただ「全員避難」のレベル4でも「まだ上がある」と対象地域の住民が油断してしまう懸念も指摘されている。

 6月からは気象庁が線状降水帯情報も出している。どの情報を頼りに具体的にどう行動すればいいか、よりはっきりと示す必要があるだろう。一方で、自治会などが普段から避難経路を確認し、所在・安否確認の連絡網を築いておく地域の取り組みも求められよう。