新型コロナウイルス感染症や東京五輪を巡り、有権者が政府、与党の対応に強い不信感を示したと受け止めるべきだ。菅義偉首相は真摯(しんし)に反省し、独善的と批判される政権運営を改める必要がある。

 次期衆院選の前哨戦になった東京都議選で、自民党は地域政党の都民ファーストの会から第1党の座を奪還した。しかし、自民党が得た33議席は旧民主党への政権交代につながった2009年都議選を下回り、公明党と合わせた議席は目標の過半数に届かなかった。国政与党が都民に信任されなかったと言える。

 主な争点になったのは、全国的な課題でもあるコロナ感染症収束への取り組みと、都内外へ感染を拡大させかねない東京五輪開催の是非だった。

 自民党総裁の菅首相は告示日の第一声で「国民の命と暮らしを守るのが与党の責務だ」とし、企業や大学を対象とするワクチンの職場接種の進展で「一日も早く収束させたい」と訴えた。五輪については「安全、安心な大会」にするため「万全の準備」で臨むと言明した。

 自民党も都議選公約の1番目にコロナ収束を掲げたが、職場接種は本格的に始まって間もなく新規受け付けが停止された。接種需要の見通しが甘く、ワクチン供給への不安や不満を高める結果になった。都内では新規感染者の増加傾向が続く。このまま歯止めがかからなければ、公約不履行と指弾されても仕方あるまい。

 23日開幕の五輪では、観客の上限数が揺らいでいる。6月に決めたばかりの「定員の50%以内で最大1万人」はコロナ再拡大で実現困難との見方が強い。外国選手団らの水際対策の不備もあり、「万全の準備」「安全、安心な大会」の言葉が有権者には空虚に響いただろう。

 前回都議選で小池百合子都知事が率いて大勝した都民ファは31議席に退潮したが、自民党との勢力差はわずか。共産党と立憲民主党は議席を増やした。五輪開催について、都民ファは無観客、共産は中止、立民は延期か中止を主張した。獲得議席は計65議席で、過半数に達した事実を軽視してはならない。

 だが、都議選結果について菅首相は「謙虚に受け止めさせていただく」と述べる一方、観客上限数はあくまでも政府や大会組織委員会などの5者協議で決定する考えを強調した。ルール上はそうであっても、選挙で示された民意への配慮がうかがえない発言には、疑問を持たざるを得ない。

 謙虚な政治姿勢と説明責任の実行が欠かせないのは、小池都知事も同様だ。都民ファ代表を退いた後も特別顧問を兼ねているが、地方自治体は知事ら首長と議員の「二元代表制」である。都議会で都民ファは行政監視の役割を徹底し、これまで一方的な発信が目立つとされた小池知事も丁寧な都政運営に努めるべきだ。

 都議選公約で各党はコロナ禍での医療、生活支援策のほか、災害や環境・エネルギー対策も打ち出している。都民だけでなく、全国民に共通する課題が少なくない。

 選挙戦を通じ有権者から届いた声も踏まえ、国政レベルでの論議につなげてほしい。特に野党陣営は衆院選に向け、政策を実現するための財源や工程に加え、自公政権に代わる政権の枠組みも明らかにするよう求めたい。