初優勝を果たし、祝勝会で祝杯を手にする大の里。左は父・中村知幸さん=26日、茨城県つくば市内のホテル
初優勝を果たし、祝勝会で祝杯を手にする大の里。左は父・中村知幸さん=26日、茨城県つくば市内のホテル

 コロナ禍では無観客開催や観客数制限、声援自粛などの制約があった大相撲が、かつての活気を取り戻している。夏場所では連日のように満員御礼の垂れ幕が下がり、新鋭の台頭が相撲新時代到来を告げた。主役は新小結で初優勝した大の里だ。相撲が盛んな石川県出身。能登半島地震に見舞われた故郷に明るいニュースを届けた。

 23歳の大の里はアマチュア横綱などの実績を積んで、1年前の夏場所で幕下付け出しとしてデビュー。初土俵から7場所目という史上最速での幕内制覇だ。春場所で110年ぶりとなる新入幕優勝を果たした尊富士も10場所目の快挙だった。相次ぐ若手の活躍が土俵に新風を吹き込んでいる。

 入門から日が浅いために髪がまだ短い。大の里は関取の象徴である「大銀杏(おおいちょう)」と呼ばれる髷(まげ)が結えないちょんまげ姿で賜杯を手にした。先場所を24歳で制した尊富士も同じような小さいまげで、史上初めて大銀杏のない優勝力士として話題になった。〝ちょんまげ力士〟の連覇である。

 先場所は優勝に届かなかった大の里は今場所、成長を示した。初日に横綱照ノ富士を圧倒して好発進すると、持ち味である前に出る相撲で白星を重ねた。192センチ、181キロの恵まれた体。馬力を生かした正攻法の攻めと柔軟な身のこなし。相撲の王道を継承できる大器だと好角家はみる。

 異例の昇進速度の中身も評価できる。幕下を2場所でクリアすると、十両は連続12勝で通過。新入幕後も2場所続けて11勝を挙げ、3場所目の12勝で優勝となった。関取になって以降は5場所連続の2桁勝利だ。どっしりとした安定感にさらなる飛躍を見通せる。

 世代交代が進みそうな若手の躍進だが、裏を返せば横綱、大関陣が若手の壁になりきれていない。番付上位陣のふがいなさが目立つ。1人横綱の照ノ富士は2場所連続して途中休場。4大関のうち貴景勝、霧島も黒星先行の後、休場した。近年は大関からの陥落は珍しいことではなく、番付の軽さが波乱続きの優勝争いの要因になっている。

 次々と昇進した大関陣が、その地位保全に苦心しているだけに、大の里には早くも近い将来、角界の屋台骨を担うだろうとの期待がある。来場所は大関をうかがう関脇に昇進する。「立派な大銀杏がなじむころには、待望の新横綱誕生も」。気の早いファンの声だ。

 新時代の旗頭誕生に沸いてはいるが、日本相撲協会内には多くの課題がある。今年に入って長年の懸案である暴力問題が再発。暴力をふるった力士が引退に追い込まれ、師匠である元横綱白鵬の宮城野親方が処分を受けた。協会の八角理事長(元横綱北勝海)は5選されたが、土俵の充実、コンプライアンス徹底の公約実現は道半ばだ。

 今場所前には大の里も20歳未満の幕下以下力士と飲酒したことが発覚し、師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)とともに厳重注意を受けた。大の里は、プロ入り時の激しい争奪戦の末に同親方が獲得した秘蔵っ子である。師匠の指導責任も重い。師弟で相撲の強さだけでなく、看板力士としての品位、品格も磨いていかねばならない。

 「日本中から愛されるお相撲さんになりたい」。優勝から一夜明け会見で語った大の里の言葉に、求められている力士像への自覚がうかがえた。