イスラエルに問いたい。何のために戦っているのか。
パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスの掃討を続けるイスラエル軍は、ガザ最南部ラファでなし崩し的に作戦を拡大。懸念された多数の市民を巻き込む攻撃も発生し、中心部に戦車が展開された。本格侵攻に限りなく近づいている。
戦闘開始から約8カ月、成果は少ない。ハマスのガザ地区トップ、シンワール指導者の発見には至っておらず、作戦でハマスから奪還できた人質はわずか3人だ。
半面、失われたものは大きく、3万6千人を超えたガザ市民の死者は言うに及ばず、イスラエル兵の戦死も増えている。出口戦略は依然明確になっておらず、もはや戦闘継続自体が目的化しているのではないか。
何よりイスラエルは国際社会の支持を失った。昨年10月のハマスによる越境攻撃で1200人もの市民が殺害され、二百数十人を超える人質が拉致された悲劇に対する共感は、ガザの病院や学校、民家を標的にする戦術を目の当たりにして消えつつある。
イスラエル軍制止を求める声は高まる一方で、5月下旬に入ると国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)主任検察官が、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いで、ネタニヤフ首相とガラント国防相の逮捕状を請求した。
間もなく同じハーグにある国際司法裁判所(ICJ)が、ラファ攻撃の即時停止を命じる仮処分(暫定措置)を出した。強制力は弱いが、国連機関であるICJの命令無視は国際法違反に発展する可能性がある。
さらに欧州ではアイルランドとスペイン、ノルウェーが、パレスチナを国家承認した。パレスチナ同情論が、甚大な犠牲をもたらしたイスラエルの自衛権行使への理解を上回るためであり、スロベニアとマルタも近く承認を表明する見通しだ。
ネタニヤフ氏は承認を「テロに対する報奨だ」と批判するが的外れだ。欧州各国が求めているのは、パレスチナ人の最低限の生存権であり、アイルランドのハリス首相が語ったようにユダヤ人とパレスチナ人それぞれの国家が「平和裏に存続するため」に過ぎない。
26日にはラファ空爆で避難民ら少なくとも45人が死亡した。ネタニヤフ氏は、長引くガザ情勢こそが〝イスラエル包囲網〟とも呼ぶべき外交的状況を作り出している現実に向き合う必要がある。これ以上の国際的な孤立は回避すべきだ。
欧州各国と対照的なのが米国だ。ウクライナ侵攻を巡ってICCがロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した際と、ICJがウクライナ侵攻停止をロシアに命じた際にはいずれも支持を表明したのに、今回はイスラエル擁護に固執する。
この矛盾について国務省報道官は「イスラエルは責任追及の仕組みを持つ民主国家だが、ロシアはそうではないためだ」と詭弁(きべん)を弄(ろう)した。ブリンケン国務長官は「極めて誤った決断だ」としてICCへの制裁さえ示唆する。
ICCへ初の日本人所長を送り出し、国連重視を掲げる日本は、こうした米国の二重基準を放置してはならない。アラブ諸国を意識したバランス外交を目指す国として、米国に対しても毅然(きぜん)として物申すべきだ。沈黙は、二重基準への加担と受け取られるだろう。