自民党が派閥裏金事件を受けた政治資金規正法改正の再修正案を与野党に提示した。公明党や日本維新の会の主張を受け入れた内容で、今国会中の成立を図る方針だ。資金の透明化について自民の従来案よりは前進したと言えるが、規正法があっても「政治とカネ」問題が続発してきた経緯がある。実効性が確保されなければ、国民の政治不信は払拭できまい。
自民案の再修正は、党総裁の岸田文雄首相が主導し、公明の山口那津男代表との党首会談で伝えた。衆院政治改革特別委員会での与野党協議がまとまらなかったためだ。与党内でも、政治資金パーティー券購入者の公開基準額を巡り対立。自民が現行の「20万円超」から「10万円超」への引き下げにとどめたのに対し、公明は寄付の基準額に合わせた「5万円超」とするよう訴えていた。
自民は法施行後3年をめどにした見直し規定を付則に盛り込む修正を行ったものの、「10万円超」自体が説得力に欠けていたと言える。
見直し規定の追加で公明内に容認論が浮上したとされる。だが、今国会の会期末が6月に迫る中、公明は態度を硬化させ、岸田首相も公明案に沿って「5万円超」とする再修正に踏み切った。背景に両党の支持者を含めた国民の反発があり、世論を甘く見ていたと指摘せざるを得ない。
裏金事件の温床になった政治資金パーティーに関しては、立憲民主党が開催禁止法案を提出している。税金が原資の政党交付金の配分額は、自民で2024年分が約160億円に上る。にもかかわらず、資金集めのパーティーそのものは存続させる判断について、自公は説明する必要があろう。
政党から政治家に支出され、使途報告の義務のない政策活動費の取り扱いも焦点だった。野党は政策活動費の廃止か領収書の全面公開を共通の要求に掲げていた。
自民は50万円超の支出に限って「調査研究費」「組織活動費」といった大まかな項目ごとに報告する規正法改正案を提起した後、使途年月も公開する修正案を示した。このような弥縫(びほう)策が通用すると考えていたなら驚くしかない。
結局、維新の会が独自に唱えていた10年後の領収書・明細書の公開と年間の使用上限を設定することなどで、首相と維新の馬場伸幸代表が合意した。
ただ、誰もがなぜ「10年後」なのか疑問を持つはずだ。国民が納得する根拠を自民、維新両党はつまびらかにすべきだ。特に維新はこの合意をもって規正法改正案の成立に賛同するなら、その理由も明らかにしてもらいたい。
一方で、野党がそろって要求していた企業・団体献金の禁止は手つかずのままだ。これらの献金は、1994年の政治改革論議で政党交付金制度を導入する代わりに「5年後の禁止」が打ち出されたが、禁止対象を絞る形で温存されている。
裏金事件をみても、政治家に順法精神が欠けていれば、規正法が守られる保証はない。
自民案は一定の要件の下で、政治資金収支報告書の不記載について国会議員に公民権停止につながる罰金を科すとしているが不十分だ。これまで同様、言い逃れの余地を残しているためで、野党が唱える連座制の導入を含めた監督責任の厳格化が求められよう。