1カ月前までチャンピオンシップ(CS)の出場権を争っていたライバルが頂点に駆け上がる姿を、島根スサノオマジックの選手や関係者は、どんな思いで見つめていたのだろう。
バスケットボールBリーグのシーズン王者を決めるCS決勝で、ワイルドカード(WC)枠で進出した広島ドラゴンフライズ(西地区3位)が、連覇を狙った琉球ゴールデンキングス(同2位)を2勝1敗で下し、初優勝を飾った。2部(B2)に在籍経験があるチームが頂点に立つのは初。1部(B1)昇格からわずか4季目で日本一をつかんだ。
島根にとって同じ中国地区に本拠地を置く広島は、B2時代から切磋琢磨(せっさたくま)してきたライバルだが、B1昇格、CS進出とも島根が一歩先を行っていた。
今季も直接対決は2勝2敗の五分だった。戦力で引けを取っているわけではない。
では、なぜ島根はCS進出を逃し、広島に大きく水をあけられてしまったのか。今季の両チームの違いは、目標達成に向けたチームの一体感と、選手層の厚さではなかったか。
象徴的だったのが、松江市総合体育館であった4月27、28日の直接対決2連戦。試合前時点で4試合を残し、33勝23敗の広島に対し、島根は32勝24敗。島根は連勝すれば、WC枠でのCS出場が見える位置にいた。
ところが、初戦は67-60で迎えた第4クオーター残り3分25秒から連続11得点を許し、まさかの逆転負け。2戦目も第3クオーター終了時まで45-41とリードしていたものの逆転され、痛恨の連敗を喫した。驚異的な広島の後半の逆転劇は、CSでも垣間見えた。
広島は開幕前、朝山正悟選手が今季限りで現役を引退すると表明していた。Bリーグ創設前から広島でプレーする大ベテラン。B2時代の17~18年シーズンの途中には、リーグ初の選手兼任監督も務めた。
その後も中心選手としてB1昇格に貢献。今季は出場機会が限られたが、後輩たちを精神的に支えてきた。
レギュラーシーズン終盤以降は「少しでも長く朝さん(朝山)と一緒にバスケットをしたい」という思いが、選手たちのモチベーションになったのだろう。下克上での初優勝は、1日に43歳を迎えた〝ミスター・ドラゴンフライズ〟にとって一足早い誕生日プレゼントになった。
危機も乗り越えた。3月3日の千葉ジェッツ戦で司令塔の寺嶋良選手が右足を負傷。代わりに出場機会を増やした23歳の中村拓人選手が一本立ちし、CSでも存在感を見せつけた。
対照的に今季の島根は、主力の故障欠場の穴を埋めきれなかった印象だ。とはいえ実力に差がない広島のBリーグ制覇は、「もう少し頑張れば、自分たちも頂点に近づける」という自信を与えてくれたのではないか。
24~25年シーズンのB1の地区分けが発表され、今季の西地区王者・名古屋ダイヤモンドドルフィンズが中地区へ移ることが決まった。西地区の島根にとっては朗報だが、上位争いの厳しさは変わらないだろう。
新たな島根の陣容はまだ固まっていないが、安藤誓哉選手、ニック・ケイ選手らの残留が発表された。ライバル広島の下克上は、彼らにとって来季に向けた大きな刺激になったはずだ。