「誓いの鐘」を除幕する中国電力の関係者=2011年6月3日、松江市鹿島町
「誓いの鐘」を除幕する中国電力の関係者=2011年6月3日、松江市鹿島町

 記念日は節目を祝うものがほとんどなのだが、中には自戒の念を込めて設けたものもある。中国電力にとって、きょう6月3日の「原子力安全文化の日」がそれに当てはまる。

 島根原発1、2号機(松江市鹿島町片句)で多数の点検漏れが発覚。これを受けて中電は、点検漏れが511カ所に上るとする総点検の結果や根本原因、再発防止策をまとめた最終報告書を経済産業省と島根県、松江市へ提出した。2010年6月3日のことだ。

 この教訓を風化させることなく、安全意識と行動について、自ら、そして相互に確認する日として、中電はこの日を「原子力安全文化の日」に定めた。

 原発を見下ろす高台にある島根原子力館(同町佐陀本郷)の敷地内に、出雲の銅鐸(どうたく)をモチーフにした高さ約3メートル、横幅約2メートルのモニュメント「誓いの鐘」を設置。11年6月3日に行った除幕式で木づちで鐘を鳴らした山下隆社長(当時)は「地元の安心と信頼なくして発電所運営はできない。今まで以上に再発防止策を実施する」と力を込めた。

 あれから13年。果たして「地元の安心と信頼」は醸成できているのだろうか。

 除幕式の3カ月近く前に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故で、原発の「安全神話」は崩壊。事故後、同じ沸騰水型の原発で再稼働した例はまだない。

 島根原発も、1号機が15年に営業運転を終え、17年に廃炉作業に着手。2号機について、中電は今年8月を予定していた再稼働を12月に延期すると発表した。構内の廃棄物処理施設で死亡事故が起き、安全対策工事が遅れる見通しになった上、一部の設備や機器の修繕や交換が発生したのが原因。工程ありきで進めては、地元住民の安心を担保できるはずがないだろう。

 2号機を巡っては、運転差し止めを島根、鳥取両県内の住民が求めた仮処分で、広島高裁松江支部が「異常な水準で放射性物質が原発敷地外に放出される重大事故の具体的な危険性があるとは言えない」とし、差し止めを認めない決定を出した。

 これを受け、中電の中川賢剛社長は会見で「安全性などを裁判所に丁寧に説明し、理解を得られた」と述べたが、だからといって、再稼働への住民の不安が解消されたわけではない。

 原子力に対する安全意識はもちろんだが、改めて問われるのが企業倫理だ。

 中電は昨年3月、電力販売を巡るカルテルで公正取引委員会から独禁法違反の認定を受け、約707億円の課徴金納付を命じられ、社長、会長が引責辞任する事態に追い込まれた。

 また、今年の「原子力安全文化の日」を前に、消費者庁が中電に対し、家庭用電気料金メニューが規制料金より実際は割高の場合があるのに、安くなるかのように表示したのは景品表示法違反(有利誤認表示)に当たるとして、16億5594万円の課徴金納付命令を出した。課徴金としては最高額という。

 中川社長は昨年6月の就任会見で「信頼回復に向け、一つ一つ課題をクリアしていく」と陳謝したが、言葉とは裏腹に不祥事が露見している。

 安心はもとより、企業としての信頼を欠いたままでは、2号機再稼働への不安は拭えない。