秋祭りのシーズン。道すがらの神社で目にする大きな奉納のぼりに、地域の営みが続いている安心感を覚える。昨年の地震と記録的豪雨に見舞われた石川県の奥能登地方でも祭りを再開する地区が出てきたという。
能登半島の先端にある珠洲市では例年9~10月に、キリコと呼ばれる巨大灯籠で練り歩く奥能登伝統の「キリコ祭り」が各地区60カ所で催される。各家が知人を招き、旬の食材と地酒を振る舞い、盛り上がる。地元の人に言わせると「祭りの2日間のために後の363日がある」ほどの大切な年中行事だ。
珠洲市では、一連の災害で185人が死亡、約1800人が市外に流出し、人口は1万人を切った。全半壊建物は計5500棟。各所に更地が広がり、「ましになった」という主要道路も亀裂や隆起が残ったままだ。多くの市民が今も仮設住宅で暮らし、とりわけ「近所付き合いは女の仕事」とのプライドから高齢男性は孤立しがち。ただ祭りとなれば、そうした男性も地域に出てくるという。
8月、市最南部の宝立町で2年ぶりにキリコ祭りが復活。皆の表情が少しだけ明るくなり、移住した金沢市から戻ろうか、との思いに変わった人もいるという。
今週初め、震災から1年9カ月の奥能登を訪れた。停滞と復興、希望と喪失がない交ぜになった独特の空気の中、何百年と変わらない祭りの存在が地域に灯(とも)す明かりの大きさを思い知った。(衣)













