2021年4月19日付本紙。「ウクライナに軍事圧力」の見出しでロシアが国境付近に大規模部隊を集結させていると報じた。この時は気に留めなかったが、本当に侵攻する22年2月24日が近づくにつれ、心の中に黒い雲が立ち込めていった。遠くにいてこうだから今も戦時下にある両国民の心はどうだろうか。
料理界の巨匠・秋山徳蔵の一代記『天皇の料理番』(杉森久英著)は、戦時中の国民の気分をよく表す。秋山の修業時代は日露戦争(1904~05年)と重なった。国内は平穏で料理にも存分に打ち込める。だが絶えず戦況が心配で気が晴れない。
強敵相手に大陸で日本軍は善戦している。でも旅順要塞(ようさい)が落ちない。どうなるのか…。落として喜んだのもつかの間、次は奉天にいる敵の大軍との戦いが不安になる。大陸は落ち着いてもバルチック艦隊との海戦に負けたら…。心にはいつも黒い雲。
松江ゆかりの文豪・小泉八雲は日露戦争中に死去した。完成品を見られなかった自著『日本-一つの試論』の中で、日本の強さは普段、辛抱強く穏やかな名もなき庶民の道義心にあるとした。
「(ロシアは)臆病さと弱さを予期したところに、思いがけない勇壮武烈に出くわした」と美徳からくる勇猛心もたたえた。その一方で、ロシアより英米の資本を恐れよと忠告。懸念は死去から41年後に的中した。鋭く日本を凝視した人が、これから朝ドラの顔になる。(板)













