島根県立美術館で開催中の永田生慈さん(1951~2018年)によるコレクション展で紹介されている葛飾北斎(1760~1849年)は、教科書にも載る著名な芸術家。だが、同じ時代の作家や、作品が生まれた時代背景まで詳しく教えてくれる機会は限られる▼そうした意味で、ほぼ同じ時代に版元として名を成した蔦屋重三郎(1750~97年)がモデルのNHK大河ドラマ『べらぼう』と、今回のコレクション展を比べながら鑑賞すると、とても興味深い▼現在、終盤に差しかかったドラマにもあったように、幕府の権力は、積極的な経済政策を打ち出して「蔦重」を支援した老中の田沼意次(1719~88年)から、質素倹約を旨とする松平定信(1759~1829年)へと移り、出版界も風刺や駄じゃれで町人らに広く読まれた「黄表紙」などに代わって、勧善懲悪がテーマの教訓的な「読本」が主流になった▼世知辛い世の中で隆盛期を迎えた北斎がどんな作品を生み出したのか。今回のテーマ「葛飾北斎期」「戴斗期」の見どころだ。先月、美術館で講演した島根大の田中則雄教授は「読本が堅苦しくて面白くないかと言えばそうではない。制作者たちには新しい文芸を開いていこうとする積極的な意思があった」と指摘した▼“お上”に規制されるからこそ、工夫が生まれる。作家たちのチャレンジ精神を作品の中から読み解きたい。(万)













