世界に60万匹以上いるとされ、素朴で愛らしい魅力で大人気の日本犬・柴犬。実はルーツが島根県益田市美都町にある。柴犬の祖となる石州犬「石号」の出生地だ。中国山地に囲まれた人口1686人の小さな町が今、愛犬家の聖地として注目されている。ルーツ解明に導いた一人の女性の執念と、石号にかける住民たちの取り組みを追った。
(益田総局報道部・藤本ちあき)

まさに珍百景 柴犬が出迎える空港
5月下旬、益田市内田町の萩・石見空港では、13匹の柴犬が飛行機から降り立った客を出迎えた。かわいらしい出迎えに喜ぶ利用客は子犬を抱いたり、写真を撮ったりしてふれあいを楽しんでいた。空港ビルの管理運営をする石見空港ターミナルビルが益田柴犬育成会と共催するイベントで、毎月第1、第3土曜日に開いている。


「こんなにたくさん迎えてくれるところは他にない」。夫婦で訪れた雨貝幸恵さん(59)は、茨城県土浦市の会社員。なんと、柴犬の出迎えを目的に飛行機を利用し、今回が2回目だという。飛行機の利用者だけではない。イベントのために市内外から車で訪れる人もおり、育成会の柳尾敦男会長(85)は「反響が大きく、柴犬のイメージが浸透してきた」と口にする。今後は7月の開港30周年の式典に合わせて出迎えるほか、キャラクターの考案や展覧会も企画する予定だという。
運命的な出会い
実は、柴犬のルーツが益田市にあると知られるようになったのは最近だ。立役者となったのが、石見地方の地犬・石州犬(石見犬)を研究・調査する石州犬研究室を主宰する河部真弓さん(65)=江津市桜江町。運命的な出会いがルーツ解明につながった。「(石号には)出会うべくして出会った。石号も私も本当に運が良かった」

河部さんは2016年、山陰柴犬を飼い始めた。山陰柴犬は、因幡犬をベースに石州犬を交配した犬種で、わずか400匹という希少な柴犬。ここで初めて「石州犬」の存在を知り興味を抱いた。それまで河部さんは江津市を拠点に地域おこしに取り組み、石見の観光情報に関するウェブサイトの編集長を務めるなど石見をくまなく歩き調べる「石見通」だったが、石州犬とは聞いた事もなかったという。
石州犬について調べていたある日、...