標高700メートルの場所にある島根県奥出雲町八川の三井野原で、地元の田尾海星さん(26)が4月、出雲そばを提供する念願の店舗を構えた。スキー場のリフトの廃止やJR木次線を走るトロッコ列車の運行が今年で終わるなど逆風が続く古里を、若さとそば職人として磨いた腕を生かして支える覚悟だ。
田尾さんは広島県との県境に位置する三井野原の出身。数年前まで町営リフトが2基あるスキー場として冬には家族連れでにぎわったが、老朽化などでリフトが廃止され、三井野原駅が停車駅となっていたトロッコ列車「奥出雲おろち号」も今年限りで運行が終わることが決まった。
こうした中で田尾さんは「ふるさとに明るい話題を届けたい。自分にはそばがある」と一念発起。田尾さんの家族が運営していた飲食店を改修し「高原そば壱心」という看板を掲げた。
田尾さんは2016年から町内のそば屋で修業。動画を見て研究したり県内の他の職人からアドバイスを聞いたりしながら、腕を磨いてきた。
自分の店では農家でもある父・清さん(68)が栽培したソバの実を使用。割子そばや山かけそばを中心に、つゆのしょうゆも地元産にこだわる。今後はキャベツや大根など実家で育てた野菜の煮物やあえ物も小鉢として提供する。
1年間を通じて楽しんでもらいたいと、9~10月の新そばの時期には、店内から白い花を咲かせるソバ畑(30アール)が見えるよう工夫。7~11月には併設した店内で野菜を直売し、冬には清さんが営み、ロープを握って接地したまま雪山を登る「ロープ塔」を活用してスキーを楽しんでもらう考えだ。
三井野原は4月末時点の人口は58人、高齢化率は60%に迫る。田尾さんは「(だからこそ)20代が頑張る姿を見せる」と力強くそば生地をこねる。(藤原康平)