最先端技術で偽造防ぐ 1885年から改良重ね
新しいデザインのお札が7月3日に発行されます。デザインを変えるのは2004年以来、20年ぶりです。お札を使う上で一番問題なのは、不具合が出たり、偽(にせ)札が出回ったりすること。それらを防(ふせ)ぐため、時代の最先端技術(さいせんたんぎじゅつ)を用いて改良が重ねられてきました。
お札の正式な名前は、日本銀行券(けん)といいます。最初の日本銀行券は1885年から発行された1円札と5円札、10円札、100円札の4種類。当時偽造(ぎぞう)されにくい青色のインキで印刷されていましたが、インキの成分が化学変化を起こし黒色に変わることがありました。紙の強度を上げようと、こんにゃくの粉(こな)が使われてネズミや虫にかじられることもあったそうです。
ホログラムは世界初
それから140年近く。技術は大きく進歩しました。新しいお札で注目したいのは、傾(かたむ)けた角度によって肖像(しょうぞう)の3D(スリーディー)画像(がぞう)が回転するように見える「ホログラム」。お札に肖像のホログラムが用いられるのは世界初だそうです。これまで肖像に使われてきた「すかし」も肖像の背景(はいけい)にまで範囲(はんい)が広がります。
また、特定の場所だけインキを高く盛(も)り上げる印刷技術を使い、触(さわ)るとでこぼこした線をお札の種類ごとに違(ちが)う場所につけることで、目の不自由な人が識別(しきべつ)しやすいようにしています。
ところで、お札が変わると大変なのが自動販売機(はんばいき)です。お札の表面は光センサー、インキは磁気(じき)センサーで精密(せいみつ)に測(はか)ることで種類を判定(はんてい)していますが、7月3日以降(いこう)はこれまでのお札と新しいお札の両方に対応(たいおう)する必要があります。システム更新(こうしん)にはお金と時間がかかるため、IC(アイシー)カードやQR(キューアール)コードといったキャッシュレス決済(けっさい)のみに切り替(か)える販売機も出てきそうです。
(本田隆行(ほんだたかゆき)・サイエンスコミュニケーター)
実物でたしかめてみよう 500円硬貨のひみつ
偽造を防ぐための技術は、硬貨(こうか)にも使われています。2021年11月に発行された500円硬貨を見てみましょう。
まずは色。外側と内側で違(ちが)います。使われているのは「バイカラー・クラッド」という技術。黄みがかった金属(きんぞく)で作ったリングの中に、銅(どう)など別の金属を3層(そう)に組み合わせたものをはめこんであります。ちなみに「500」の数字がある方がうら面です。
では、次の三つの偽造防止技術がどこに使われているか、探(さが)してみてください。いくつ見つけられるかな?
【1】「JAPAN(ジャパン)」の文字を上下2カ所、「500YEN(エン)」の文字を左右2カ所にほどこしている。
【2】傾(かたむ)けると見る角度によって「JAPAN」と「500YEN」が見えかくれする。
【3】ギザギザ模様(もよう)を異(こと)なるパターンでななめに入れている。
〈答 え〉
【1】表面のふち
【2】うら面の数字「500」の「0」の中
【3】側面肖像の3D画像が回転したように見えるホログラム(国立印刷局ホームページより加工して作成)
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略歴
ほんだ・たかゆき 鳥取県三朝(みささ)町出身で、1982年生まれの「科学とあなたをつなぐ人」。神戸(こうべ)大学大学院時代の専門(せんもん)は地球惑星(わくせい)科学でした。日本科学未来館勤務(きんむ)を経(へ)て国内でもめずらしいプロのサイエンスコミュニケーターとして活動中。