新型コロナウイルス禍で、タクシー運転手が大幅に減少している。山陰両県の事業者団体のまとめで、2020年度の減少数は島根が前年度より61人多い107人、鳥取が21人多い62人となった。夜の飲み会など外出自粛に伴い手取り収入が減り、離退職につながったとみられる。コロナ収束後の稼働への影響が懸念される一方、事業者からは「以前の水準には戻らない」との声が聞こえる。 (岸本久瑠人)
タクシー事業者99社が加盟する島根県旅客自動車協会によると、20年度末時点の運転者数は1209人、鳥取県ハイヤータクシー協会は加盟26社で665人となり、ともに1年間で1割程度減った。島根の減少数は運転手数の統計を取り始めた15年度以降、最多だった。もともと運転手不足の状況にあった中で減少に拍車が掛かった形だ。
タクシー運転手の賃金形態は大半が歩合制。夜間は割増料金で長距離利用も多く、稼ぎ時となるが、新型コロナ感染拡大による宴会の減少で客を失った。
鳥取、倉吉、米子に営業所がある日ノ丸ハイヤー(鳥取市古海)の運転手、藤原敏夫さん(69)は「毎日が(乗客が少ない)月曜日みたいで恐ろしい」と嘆く。鳥取市内の繁華街を歩く人の姿はわずかで、夜間勤務中に乗客ゼロの日も初めて経験し、給料は繁忙期の半分にまで下がったという。
所属する運転手は20年度中に11人減り、21年5月末現在で76人となった。会社の売り上げも厳しい状況が続き、平山雄司管理部長(49)は「外に出ない生活習慣ができつつある」と話す。
第一交通(松江市東朝日町)は収入減などコロナを理由に運転手2人が辞め、44人となった。20年度の売り上げは前年度比で2分の1以下に減少。持田信也所長(38)は、リモート会議などオンラインの活用で出張が減りビジネス利用の低迷も続くと予測し「客数は全盛期のようには戻らないだろう」と厳しい見方を示す。
運転手が過度に減ると、必要なときに予約が取れない場合が増えることになり、生活の足や経済活動の再開に悪影響を及ぼしかねない。島根県旅客自動車協会の秦日出海専務理事(65)は「コロナの影響が長期になり、事業維持が難しくなっている。このままでは運転手や車両を維持できない」と業界の窮状を訴えた。