十三代目市川團十郎白猿さんの襲名披露巡業公演が9月7日、松江市殿町の島根県民会館である。襲名披露巡業は約2年続き、松江は最終盤の会場の一つとなる。演目の「河内山」は松江出雲守の屋敷が舞台。公演を前に團十郎さんが取材に応じ、河内山について「痛快劇だ。ご当地としてひと味違う楽しみがある」と語った。 (原田准吏)
―襲名から2年になる。心境の変化はあるか。
「今までは父の教えを受け継いで、次の世代に渡す責務を大きく感じていた。今はもっと歌舞伎を楽しみたい。自分が楽しんだ結果、お客さまに伝わるような歌舞伎を古典でも、新作でもやってみたい。今までにはない新たな心境だ」
―河内山は島根にゆかりのある演目だ。ご当地公演への思いは。
「松江出雲守という相当、大きな権力のあるところに、全く逆なお数寄屋坊主が変装して乗り込んでいく。乗り越える様は痛快劇で、ご当地として、他とはひと味違う楽しみがある」
―演じる河内山宗俊の面白みや印象は。
「今の時代のコンプライアンス的に存在できないようなタイプだ。ただの茶坊主でいわくありげな危険人物。ただ、頭の回転がいい。(さまざまな困難に)確実に勝ち続ける爽快な演劇。最後は分かりやすい展開で好きな芝居だ」
―初めて河内山宗俊を演じたのは2015年だった。9年がたち、十三代目團十郎として初めて演じる心境は。
「9年前はまだ何も分からなかった。河内山をこの巡業で磨き、今回をきっかけに自分の演目になるようにしたい。河内山は九代目市川團十郎が、直侍は五代目尾上菊五郎がそれぞれ初演を務めた。自分が全てやって一つの舞台にする夢がある。第一歩として9年ぶりに河内山をやるのは楽しみだ」
―21年以来の島根県での公演になる。島根や松江市の印象は。
「温泉が良かった。自然が多く、できれば住みたい。(住民の)気がいい」
―島根で公演を待つ人たちへメッセージを。
「ご当地で河内山ができるのは楽しみで、他の巡業で味わえないものを味わえる。ご覧になるお客さまもひと味違ったものに感じられると思う。ぜひ、お越しいただきたい」
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プロフィル
十三代目市川團十郎白猿 1977年生まれ。東京都出身。父は十二代目市川團十郎さん(2013年死去)。1985年に七代目市川新之助を襲名し、初舞台。2004年に海老蔵を襲名。「毛抜」「鳴神」「不動」を含む大作「雷神不動北山桜」を通し上演するなど、團十郎家の芸「歌舞伎十八番」に向き合うとともに、新しい歌舞伎の形も追い求める。22年秋に十三代目を襲名。
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河内山あらすじ
江戸城のお数寄屋坊主・河内山宗俊は、松江出雲守邸で腰元・浪路として奉公している質屋・上州屋の娘が、出雲守に見初められたために幽閉されていると聞き、200両で浪路の奪還を請け負う。河内山は上野寛永寺の使僧と偽って出雲守邸に出向き、渋る出雲守を見事説得。浪路の救出にこぎ着けるが、その帰りがけに…。
河竹黙阿弥の名作「天衣(くもに)紛(まごう)上野(うえのの)初花(はつはな)」からの一幕。河内山は悪党ながらも人物の大きさや色気、愛嬌(あいきょう)も兼ね備えた人物で、黙阿弥らしい七五調の名ぜりふも聴きどころとなっている。
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公演情報
島根県民会館の公演は9月7日午後1時開演と、同4時半開演の2回。チケットはS席1万3千円、A席1万1千円。問い合わせは山陰中央新報社文化事業局事業部、電話0852(32)3415。