トランペットに似た楽器フリューゲルホルンの奏者といえばチャック・マンジョーネ。ジャズからフュージョンに転向して1970年代後半に「フィール・ソー・グッド」「サンチェスの子供たち」といった親しみやすいヒット曲を連発し、時代の寵児(ちょうじ)となった。子どもの頃、父によく聴かされ、懐かしい。
「フィール・ソー・グッド」(同名の1977年のアルバムに収録)は哀愁漂うソロで始まり、パーカッションが入って軽快なリズムに変化し、明るく爽やかな音色を響かせる。タイトル通り「いい気分」になる曲。ラジオで流しやすいようにか、3分半の短縮版も作られたが、10分近い原曲の方が冒頭のソロや途中の即興演奏が楽しめてお勧めだ。
「サンチェスの子供たち」(同名の78年のアルバムに収録)はスペイン風のギターと歌でしみじみと始まり、勇ましい曲調に変化する。西部劇というか、荒野が目に浮かぶ曲。日本では車のCMに使われた。同じアルバムの曲「哀しみのベラヴィア」もいい。
 
 個人的には「チェイス・ザ・クラウズ・アウェイ」(同名の75年のアルバムに収録)が一番好きだ。しみじみ系の曲で、フルートも絡んで情感たっぷり。ライブ盤「ライブ・アット・ザ・ビレッジ・ゲート」(89年)では歌が入り、さらに情感が増している。
爆発的に人気が高まった後、低迷して影が薄くなり「一発屋」とも言われる。急速にスターになってしまい、重圧が大きかったのだろうか。才能豊かな音楽家だったのは間違いない。
もともと、ディジー・ガレスピーに憧れてジャズトランペット奏者となり、ドラムの御大アート・ブレイキーのバンドに参加した。同じく駆け出しだったピアノ奏者キース・ジャレットもその頃在籍し、共演しているのが面白い。
しっとり系の曲「マイ・ロマンス」(ブレイキーの66年のアルバム「バターコーン・レディ」に収録)では、ミュート付きトランペットでマイルス・デイビスみたいな渋い音を奏でる。キースのソロも美しい。ブレイキーは控えめにリズムを刻み、引き立てる。同じアルバムの曲「ビトゥイーン・レース」ではマンジョーネらの速くスリリングな演奏に、ブレイキーが熱い連打で応じる。
 若手を育てようというブレイキーの心意気を感じるだけに、ジャズの世界にとどまっていたら、どうなっただろうと想像が膨らむ。
 (志)





 
  






