怖くてトイレに逃げ込み、途方に暮れた。緊張のあまり〓(順の川が峡の旧字体のツクリ)をたたいてもつねっても痛くない。「泳げない。どうしよう」。16歳になったばかりの松崎ヨシ子(当時は森実芳子)は晴れ舞台におびえていた。

 1964年東京五輪。日本選手団の最年少として注目を集めた競泳女子の松崎は、係員に連れ戻されてプールに入場した途端、万雷の拍手を浴びて動転した。放心状態でスタートし「水をかいてない感じ」のままゴール。予選落ちし「申し訳ない」と号泣した。

 「なぜ五輪にな...