松江市が導入に力を入れる人工知能(AI)を搭載したデマンドバスを巡り、市内のタクシー事業者から経営への影響を不安視する声が上がっている。AIが予約状況を踏まえて最適なルートを割り出し、料金一律200円で好きな時間に乗車でき、タクシーと似た利用ができるためだ。市は「相乗り」率の向上などですみ分けを図る必要性を認めており、共存に向けた試行錯誤を続ける。
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デマンドバスはコミュニティーバスの後継として市が昨年4月に八束地区で、今年4月に大野・秋鹿地区で導入。時刻表や決まった運行ルートがない一方、地区内で数百カ所(八束地区121カ所、大野・秋鹿地区269カ所)の乗降場所が決められ、利用者がスマホアプリや電話から乗り場や乗車日を指定する。年間経費はいずれも約1700万円。八束地区では23年度、22年度まで運行していたコミュニティーバスの1・6倍に当たる約6500人が利用した。
「再検討を願いたい」。4月26日、県旅客自動車協会の松江、八束両支部は市に対し、10月から予定する八雲・忌部地区と宍道地区への導入を反対する要望書を提出した。
八束支部によると、デマンドバスの運行が始まった23年度、加盟するタクシー会社では予約が減少。客を探すためにJR松江駅や近くの歓楽街に向かい、八束町内を走る車両がほとんどない事態に陥ったという。
両支部は市と協議を重ね、八雲・忌部地区と宍道地区への導入を了承したものの、八束支部の物部淳治支部長は「運行区間を区切ったり、乗降場所を減らしたりしなければ、いつかはタクシーがなくなる」と危機感を示す。
タクシーとの差別化になりうるのが相乗りの取り組みだが、八束地区での相乗り率は12%と低調。市は前日までの予約を増やすことで割合を上げることができると見て、呼びかけに力を入れる。
上定昭仁市長は取材に対し「役割分担ができていない状況だ」と認め、一律200円の料金設定について将来的な見直しの必要性を示唆。「タクシーとの共存に向け、運行コストなどの検討を進めていきたい」と述べた。
(佐々木一全)