記者会見で「好きな日本語は?」と聞かれ「ささくれ」「せせらぎ」「こもれび」と答えた。平仮名表記、4音から成る言葉が心地よいという。「彼岸花が咲く島」で第165回芥川賞に決まった台湾出身、東京都在住の李琴峰さん(31)だ。

 台湾出身の作家が芥川賞に選ばれるのは初めて。母語が日本語ではない作家の受賞は2008年、中国出身の楊逸(ヤンイー)さん以来2人目となる。もう1人の受賞者はドイツ在住の石沢麻依さん(41)。2人とも日本語や日本文化から一定の距離がある地平で小説を紡いだ。

 異なる文化や言語の摩擦、あるいは融合から新たなものが生まれる。多様性が文学を広く深くする。日本語や日本語の文学を外側から見る視線を持ち、異物のように捉えるからこそ、更新することができるのだ。日本語文学をより豊かにする可能性を秘めた2人の受賞を喜び、期待したい。

 李さんの受賞作の舞台は、沖縄・与那国を思わせる島。過去に男たちが起こした国や地域の争いや惨劇があり、今は女たちが島を統治し、歴史を伝承している。

 日本や台湾で使われる言葉を混交させたような架空の言語をつくり、登場人物に使わせた。二つ以上の言語が接触した場所で生まれる「クレオール語」的な言葉と言っていいだろう。

 李さんは中学生の時に日本語を学び始め、台湾大を卒業後の13年に来日。初めて日本語で書いた作品が17年、群像新人文学賞優秀作に。以来、性的少数者やジェンダーをテーマにした野心的な作品を発表してきた。

 「母語が日本語でないことが創作の根源に関わっている」「私の一つ一つの作品が日本文学をアップデートしている」と自負を隠さない。選考委員の松浦寿輝さんは「日本や日本語の概念そのものを問い直す」と李さんの存在を歓迎する。

 石沢さんは仙台市出身。東日本大震災を経験し、だからこそ震災を題材にすることにためらいがあった。だが13年にドイツに留学したことで変わる。第2次大戦時のナチス統治など、負の歴史と向き合うドイツで暮らしながら、震災を見つめ直した。「復興」をうたった東京五輪への違和感も作品を書くきっかけの一つになったという。

 受賞作「貝に続く場所にて」は記憶を巡る物語。仙台市出身でドイツに暮らす主人公の前に、震災で行方不明になった友人の幽霊が現れる。死者への罪悪感が主人公を襲う。「傍観者の視線で、この年月を過ごしていたのだろうか、と私は自分に問い続ける」と記した。死者への後ろめたさを抱えながら「問い続ける」しかないと気付いた。

 芥川賞の受賞者は2人とも女性、直木賞も含めると4人中3人が女性だ。1月発表の第164回芥川賞、直木賞の受賞者も2人とも女性だった。

 文学者らの職能団体のトップを見れば、日本文芸家協会の理事長は林真理子さんで、日本ペンクラブ会長は桐野夏生さん。女性作家を特別視する「女流」という言葉が使われていた頃を思えば隔世の感がある。性差に関係なく、実力で勝負できる時代になった。

 LGBTを題材にする作品も珍しくなくなり、多様化はさらに進む。政界や経済界の遅れを尻目に、表現の世界は古い性差別や不平等を乗り越えていく。そのことも喜びたい。