昨年夏のある夜、私は分娩(ぶんべん)台の上で意識もうろうとしていた。

 男性の皆さんもぜひ想像してほしい。おなかがとっても痛い1分間が過ぎると、全く痛くない1分間が来る。その後またとっても痛い1分間がくる。この繰り返しが陣痛だ。赤ちゃんを外へ押し出そうと子宮が縮こまる時が痛い時なのだ。

 出産を例える「鼻からスイカを出すような痛み」という表現がある。産前、これをあまりうまい表現とは思えなかった。そこで私は「誰もが理解できる表現を編み出してやろう」とたくらんでいた。

 陣痛中、人間全員に理解してもらえるであろう的確な表現を思いついた。「おなかを下して、お尻の穴から巨大な鉄の塊を出したいのに、踏ん張っても全然出てこない」

 私が感じた陣痛はまさにおなかを下した時の痛みと同じで、ギューンと痛くなってぎゅっと体を縮こまらせたくなる感じ。陣痛の感じ方にもいろいろなタイプがあるらしく、痛みも人によって感じ方が違うので、これは経産婦であっても理解されないこともあるようだが、私はそうだった。

 「ああ…痛い…」「もう嫌だ…」。消え入りそうな声で訴える私に、助産師さんは「痛いってことは、いいことだけんね」「痛い時こそいきんで!」と声をかける。本当は痛いときはじっとして痛みがなくなるのを待ちたい。なのに全力で踏ん張らないといけない。「赤ちゃんも頑張ってるよ、お母さんも頑張って!」。それを聞いた私は「赤ちゃんが頑張ってるのなら私はちょっと休みたい…」と、途中いきむのをさぼり始めた。もともとない体力は、陣痛開始から約12時間で尽き果て、陣痛の波は弱くなってしまった。(文化生活部・増田枝里子)