「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
大きな泣き声に、ずっしりした温かさ。長い間、おなかで育ててきたわが子を胸に抱き、「やっと会えたね」。気付けば喜びの涙があふれていた…。
というのは想像の話。確かに出産直後、私は涙を流していた。だが正直なところその涙は、わが子に会えた喜びというより、長時間にわたって苦しんだ陣痛がやっと終わった、本当に本当に痛かったなぁ、やっと休める…という、安堵(あんど)の涙だった。母になったというのに自分のことしか考えられないなんて、大丈夫なの?と少し心配にもなった。もちろん、初めて抱いたわが子の重み、温かさは、1年たった今でも覚えているが。
陣痛が来たのは予定日を5日も過ぎた朝だった。初めは陣痛だと気付かず、おなかを冷やして下したのだと思い込んでいた。でも、トイレで踏ん張っても何も出てこないし、全然すっきりしない。痛みもなかなか治まらない。それにお尻の辺りも内側から圧迫されるような痛みがあった。
痛みと痛みの間隔を測ってみると5分おきだった。病院からは10分おきに痛みが来たら連絡するよう言われていたので、念のため電話すると「5分おき? すぐに来てください」と一言。まだ我慢できる痛みだったので「これが陣痛かぁ…」と人ごとのように感じていた。
仕事を抜け出して駆けつけてくれた夫が病院まで送ってくれ、「頑張ろう!」と言ってくれた。でも、「病院に行ってもすぐには生まれず、家に帰されることもある」とうわさに聞いていた私はなぜか冷静で、「え? 今日産むの?」とぴんと来ずにいた。このときの私はまだ知らなかった。これから長い夜が始まることを…。
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昨年夏、記者(29)は母になった。幸せなイメージしかなかった子育てを実際に体験し、苦悩や挫折を繰り返しながらようやく1年を迎えられた。子育ての舞台裏を知ってもらい、少しでも身近に感じてもらえるよう、夫で同僚の多賀芳文記者(32)と共に、日々感じている率直な思いをつづっていきたい。(文化生活部・増田枝里子)