移動販売車を利用する住民に声をかける小原佐智子副看護局長(左から2人目)と近藤仁子看護局長(同3人目)=鳥取県日野町内
移動販売車を利用する住民に声をかける小原佐智子副看護局長(左から2人目)と近藤仁子看護局長(同3人目)=鳥取県日野町内

 高齢化率50%超の中山間地域で「寄り添う医療」を実践する公立日野病院(鳥取県日野町野田)のベテラン看護師が、地域に出かけて住民の健康相談に乗る活動「看護の宅配便」を通じ、通院の不便な山あいの暮らしを支えている。希望があればその場で血圧や脈拍も測定。地域を知り、看護師の役割を見つめ、次世代育成にもつなげる。

 病院は日野、江府、伯耆3町でつくる一部事務組合が運営。看護師の地域活動は、日野、江府各町で民間事業者が走らせる買い物支援の移動販売車に同行するスタイルで、2011年に始まった。

 コロナ禍を挟み24年6月、月1回から週1回に増やし、約5年ぶりに再開。小原(おばら)佐智子副看護局長(58)が、近藤仁子看護局長(58)と共に、販売ルートの違う曜日を選んで地域を回っている。

 「お変わりはないですか?」-。買い物籠やマイバッグを提げてやって来る住民に声をかけると、せきを切ったように話す人が少なくない。独居も多く孤独感を抱える暮らしと向き合う中で「そういえば」と出てくる健康の不安。必要に応じて体温や血圧、血中酸素飽和度も測る。

 購入する商品がいつもと違うなど、ちょっとした変化から体調が分かることがあるといい、販売事業者と連携。「みてあげて」と言われ、不安のある住民とつないでくれることもある。

 小原さんは24年春、高校卒業から40年ぶりに古里の日野に帰ってきた。県内外で勤務し、働きながら鳥取看護大(倉吉市)で修士号も取得。その経験と知識を持ってしても「地域を歩かなければ、知ることはできない」ということは多い。

 山深く、狭い道、急な坂。病院周辺では解けてなくなった雪に、なお覆われる家屋や農地。「夏と冬でも注意点は変わる。生活のイメージができないと、これからの看護師はやっていけない」。日常のリスク管理や退院後の暮らしまで考えて支える、「寄り添う看護」で求められる資質だ。

 受け持つ患者も多い病院勤務の看護スタッフの負担を考え、現状では2人だけで活動する。この半年余りを振り返り、近藤さんは「地域とのつながりが実感できれば、この病院の良さがもっと分かる。看護師のやりがいと成長につながる」と確信を強める。

 若手の研修などに取り入れ、参加の輪を広げる考え。地域で親しまれるようにと願い、映画「魔女の宅急便」から命名された活動のたすきをつなぎ、住み慣れた地域で暮らせる安心をこの先も届ける。

(吉川真人)