島根県教育委員会が2025年度に導入する「たつじんテスト」は、従来の学力調査と異なり、特定の教科で問うものでなく学年別でもない。開発責任者で慶応大環境情報学部の今井むつみ教授=認知心理学、発達心理学、言語心理学=の話と、同教授らの著書「算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振」(岩波書店)を基に内容や目的を紹介する。 (増田枝里子)
種類は大きく分けて二つある。主に言葉に関わる知識を測る「ことばのたつじん」と、数・図形に関する知識と推論する能力を測る「かず・かたち・かんがえるたつじん」だ。特定学年の特定教科を学ばなければ解けない問題は、基本的にない。
子ども自身が日常生活の中で作り上げた言葉や数・量についての「スキーマ」(経験を基に作った知識の枠組み=暗黙の知識)を使えば、答えを出せるような内容になっている。
両種ともそれぞれ3部構成で、いずれも所要15~20分で実施できる。授業でなく、朝礼前の時間などに気軽に取り組めるのも特徴だ。
言葉の意味や運用
「ことばのたつじん」は一般的な語彙(ごい)知識や広さ▽前後左右、2日前、5日後、1週間先などの空間や時間を表す言葉を話し手の視点によって柔軟かつ的確に運用できるか▽日常的な動作を表す動詞の使い分けができるか-などを測る。
具体的には単語の意味の説明や定義を問う「ことばのいみ」、類義語を問う「にていることば」、「長い目で見る」「顔が広い」など慣用的な使い方を問う「あてはまることば」といった語彙に関する知識を問う。
自分の視点で左右を答えたり、地図上で別の視点から左右、裏や向かいの位置を答えたりする問題、カレンダーのある地点の1週間後を選ぶ問題などもある。動詞をかっこ内に適切な形に活用させて記入する問いでは、似た意味の動詞を適切に使い分け、正しい表記で使えるかどうかをみる。
数、図形、推論問題
「かず・かたち・かんがえるたつじん」は数や量についての正しいスキーマを持っているか▽図形をイメージし頭の中で回転させたり折り畳んだり展開したりできるか▽論理的な推論ができるか-などを測る。
具体的には0~100の数直線上に与えられた数の大体の位置を矢印で示す、小数と分数の大小関係、図形を折ったときや隠れた部分、回転させた場合のイメージ図を答える問いなど。部分的な情報をつなげて全体構造を推論したり、見本と同じ関係にあるもののペアを見つけたりする問いもある。
点数化や順位付けはされない。子どもというより、大人(教員)のためのテストといえる。子どものつまずきの内容把握と対処を考えるきっかけを提供するものという認識で作られた。
教える側も、普段当たり前に使う言葉や数の概念がいかに抽象的で、学ぶ側に複雑な思考と認知過程を求めているのかに気付く契機になる。気付きを踏まえ、適切な指導につなげることが、たつじんテストの役割だ。
いまい・むつみ 認知心理学、発達心理学、言語心理学の分野を専門とし、認知科学に基づき、学習の「つまずき」の原因を明らかにする小中学生向けの「たつじんテスト」の開発に従事。「学力喪失-認知科学による回復への道筋」(岩波新書)など著書多数。