夏休みで人の移動が増え、地方にも新型コロナウイルス感染が広がる恐れが高まっている。全国知事会は旅行や帰省を原則中止、延期するよう国民に求めるメッセージを出したが「五輪開催と矛盾」との反発が聞かれ、協力を得るには限界がありそうだ。海外のような制限が厳しいロックダウン(都市封鎖)の検討を求める声に、政府は否定的姿勢を貫いている。
▽「今更遅い」
「都道府県境を越えるのは感染を広げることと同義語だ」。1日の知事会会合。平井伸治鳥取県知事が旅行中止呼び掛けの狙いを説明すると「国民と危機感を共有する強いメッセージが必要」(河野俊嗣宮崎県知事)など賛同意見が相次いだ。
背景には、首都圏で急激に感染者数が増える中、人々の往来活発化で感染力の強いデルタ株が地方にも拡大し、医療体制が崩壊するという懸念がある。
しかし、会員制交流サイト(SNS)のツイッターには「なぜ都道府県境を越えた帰省は中止で、国境を越えた五輪はやるのか」「今更遅いよ、旅行予約しちゃった」と疑問や戸惑いの声が続出。キャンセル料補償を求める意見もあった。
政府も、知事会のような強い表現には及び腰で温度差が大きい。加藤勝信官房長官は2日、記者会見で県境を越えた移動は「できるだけ避けてほしい」と自粛を呼び掛けただけだった。
▽自粛の反動
交通機関の予約はコロナ禍前に遠く及ばないが、長引く自粛もあり前年から伸びている。お盆期間の航空各社の国内線予約は前年比1・4倍。JR東日本は8月6~17日の新幹線、在来線特急の指定席予約数が前年比1・5倍となっている。
和歌山県白浜町の海水浴場は観光客でにぎわう。あるホテル関係者は「予約状況はGoToトラベル実施中だった昨年と同じか、やや少ないくらい」という。避暑地・長野県軽井沢町も花火などのイベントが軒並み中止されたが、首都圏から家族で連泊する客が多い。観光協会の工藤朝美事務局長(61)は「宿泊施設や飲食店は万全の対策をしているが、お盆明けに感染が爆発しないか心配な面はある」と話す。
▽権利の制限
こうした状況に知事会は1日、国への緊急提言で、外出を厳しく制限するロックダウンのような手法を検討するよう求めた。自治体関係者は「民主主義の先輩である英国なども導入している。日本でも議論が必要だ」と説明する。
ただ、福岡市の高島宗一郎市長は2日の記者会見で「補償が全く考えられていないので、日本では難しい」と指摘。政府も、日本には「なじまない」(菅義偉首相)と必要な法改正に否定的だ。加藤官房長官は2日の記者会見で「個人に対する強制力がある。仮に罰則を設けるとしても実効性を確保できるのかなど課題がある」とした。
緊急事態宣言の前段階となる「まん延防止等重点措置」を導入した改正特別措置法の国会審議で、衆参両院は付帯決議を採択。国民の自由と権利の制限は最小限にするよう求めた経緯もある。
政権幹部は「よほど緊急性が高いウイルスでない限り難しい」とし、別の政府筋は「海外でもロックダウンを解除すれば再び感染は広がっている。日本のやり方は間違っていない」と語った。