音楽好きが集う喫茶店として知られる松江市西茶町の「喫茶MG」を切り盛りする「あっちゃん」こと浅野淳子(あつこ)さん(77)が、開店からの55年を語るイベントが22日、松江市内であった。店の歩みを親交あるミュージシャンのエピソードとともにたどり、市内外から駆けつけたファンが耳を傾けた。
MGは高度経済成長期さなかの1969年、弟、母とともに始めた。洋裁学校を出たものの、アルバイトでやっていた喫茶店の皿洗いが「なんだか洋裁よりも性に合っている気がした。家族が食べていければと一念発起した」と振り返る。
音楽好きが集う場になったのは、70年代の安保闘争がきっかけだった。近くの末次公園で行進があったため、おなかを空かせた学生たちが集まるようになり、彼らが持ってきたビートルズなどの音源を流し始めた。うわさを聞いた高校生たちもレコードを持って集まってきた。その中に、俳優の佐野史郎さんやギタリストの山本恭司さんもいたという。
当時、MGは「不良の行くところ」と言われ、警官がよく巡回に来るほどだった。浅野さんの記憶に焼き付いているのが、焼きめしを食べにきていた女子高校生の言葉。「ここは高校生の来るところではない」と警官に注意された時、「私はここに焼きめしを食べに来ています」と言い切った。「50年たっても覚えている。いろいろな高校生、大学生が来てくれたことが、店を特別にしてくれた」と懐かしむ。
MGを愛する著名人がこの日のために寄せたビデオメッセージも紹介。山本さんは「MGがあったからこそ多くの仲間、ミュージシャン、音楽に出会えた。これからも全国のファンを幸せにしてあげてください」と呼びかけた。
思い出のエピソードや写真とともに55年を振り返った浅野さんは「感無量。うれしい時には一緒に笑い、困った時には手を貸してくれたお客さまに恵まれたことが私の一番の宝物です」と瞳を潤ませた。
山陰中央新報社文化センターのMGファンが企画し、33人が訪れた。20年ほど毎週のように通う米子市和田町の自営業、舩越知彦さん(62)は「いつもおいしくて楽しくて、あっちゃんが笑顔で、落ち込んでいても元気になれるお店だ」と話した。多くの来場者が「あっちゃん、またね」と声をかけて、会場を後にした。
(今井菜月)