山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が9、10の両日、浜田、益田両市であった。慶応大大学院経営管理研究科教授の井上哲浩氏(60)が「地方企業のマーケティング戦略」と題して講演した。要旨は以下の通り。
マーケティング論は、かつては環境分析をして狙うターゲットを決めた上で、売り込んでいくという方法が主流だった。現在は自社の内部資源を用いて価値をつくり、その価値を認識する顧客に提供していくという考え方に変わってきている。
鍵となる概念が「Value Proposition(バリュープロポジション)」だ。典型的な例がスウェーデンの高級車ブランド「ボルボ」。自らの強みである安全性や耐久性を表現するような製品をつくり、その製品に合致するようなターゲットに売っている。だからこそ値引きをせずに済むし、利益率が高くなる。現代マーケティングの原点といえる。
ただ、バリュープロポジションを実践するには、重要性、独自性、先駆性、収益性などいくつかの条件を満たさなければならない。これが意外に難しい。
成功例を紹介する。世界2位の建設機械メーカー・コマツは、建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステム「コムトラックス」を構築した。コムトラックスから得られる情報を用いて製品の開発、改良やメンテナンスサービスにも利用できるようになり、現場を3次元(3D)測量するなどして、生産性を向上させる「スマートコンストラクション」というサービスにつながった。
外部資源の内部化についても触れたい。その一例がブランドに対する愛情だ。例えば、卒業式や成人式が開かれる時期は地域に対する愛が高まる時期。こういった時期に企業の地域貢献活動などをPRすると、親などが目にし、会社のイメージが上がる。こうした取り組みにより、採用活動がうまくいった例もある。
「ブランド愛」が一度できれば、非常に長い間持続される。地方は資源が限られているからこそ、資源をうまく活用することが大切になる。(三浦純一)