排水設備設置工事を巡る構図
排水設備設置工事を巡る構図

 静岡県熱海市で発生した大規模土石流の起点となった土地で2011年、盛り土に排水設備を設ける工事が行われたものの、わずか2カ月後に中止になっていたことが9日、関係者への取材で分かった。工事代金を巡り、土地の所有者側と施工業者がトラブルになったことが原因。現在の所有者が、条例で設置が義務付けられた排水設備が未完成であると認識していたにもかかわらず、10年近くにわたり必要な措置を講じていなかった可能性がある。

 県は土石流発生直後の現地調査で、排水設備がなかったとみられることを確認。排水設備の不備が土石流を引き起こした可能性もあるとみて、経緯を詳しく検証している。現所有者の代理人弁護士は取材に「土地取得後に工事を行ったことはない。(排水設備に不備があると現所有者は)知らない」としている。

 関係者によると、起点の土地が神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)の所有だった10年、同社の幹部(当時)と、当時土地の購入を検討していた現所有者が現地を訪れた。同社側が盛り土中の産業廃棄物を撤去することや、静岡県土採取等規制条例で設置が義務付けられた排水設備やため池を造ることで合意した。

 その後、不動産管理会社が山梨県甲州市の業者に排水設備の設置工事を依頼。業者は、土地が現所有者に引き渡された約半年後の11年8月に着工したが、代金不払いを理由に同10月に中止した。

 不動産管理会社が未払い金がないことの確認を求めた訴訟の資料などによると、完成には数千万円かかる見通しだったが、頭金に当たる20万円程度しか支払われず、業者も約120万円分の工事しか実施しなかった。

 大規模土石流は7月3日に発生。約130棟が流され、23人が死亡。8月9日現在、依然5人の行方が分かっていない。06~11年に起点の土地を所有していた不動産管理会社は、盛り土に木くずを埋めるなどの問題行為を繰り返し、静岡県と熱海市から再三にわたり行政指導を受けた。県と市は盛り土の監視体制が適切だったかチームを設置して検証を進めている。