有福温泉(江津市有福温泉町)の「温泉地まるごとホテル」化が始まった。旅館の食事をセントラルキッチン方式にし、空き旅館に公衆サウナを設けるなど、温泉街を一つのホテルに見立てて効率化、機能向上を図る。地域間競争の激化に新型コロナウイルス禍も重なり、入り込み客が減る中、官民連携のプロジェクトで起死回生を目指す。(福新大雄)
1400年近い歴史がある有福温泉の無色透明な単純アルカリ泉は美人の湯として知られ、ピークの2000年に14万3千人の入り込み客があった。しかし、団体旅行から個人旅行へのニーズの変化、旅館火災や豪雨災害で客が減り、20年には3万3千人になった。かつて20軒あった旅館は3軒となり、土産物や飲食店もなくなり、空き家が目立つ。
歴史ある温泉を途絶えさせてはならないと、官民で構想した温泉地まるごとホテル化は、コンパクトにまとまった温泉街を一つのホテルに見立て、宿泊、飲食、娯楽の機能別に施設を使い分け滞在してもらう。
既存旅館は、コロナ禍での客数変動や経営者の高齢化で食事提供の負担が増しており、宿泊を主体にしながら、食事はセントラルキッチン機能を兼ねるレストランから提供する仕組みを取り入れる。7月中旬、レストランを運営する民間業者が工事を始め、10月には開業する計画だ。
景観悪化を招く空き旅館2棟は新たな施設に再生する。22年2月末までに、公衆サウナを備えたゲストハウスや、休暇を取りながら働くワーケーションに対応する仕事場、カフェ、展望デッキに生まれ変わる。
観光庁や島根県の補助金を含め、21年度の総事業費は約6億円を見込む。官民連携事業の事務局がある江津市の三木和彦商工観光課長は「江津の貴重な資源を、市を挙げて守りたい」と話す。
市などは今後、トレッキングやサーフィン、農作物収穫、エステといった体験メニューの造成、宿泊予約時に飲食店の予約や各種体験メニューを一括して申し込めるアプリ開発を進め、集客を後押しする。