音楽アーティスト専門の鍼灸師として活動する野田峻也さん(撮影・浜野カズシ)
音楽アーティスト専門の鍼灸師として活動する野田峻也さん(撮影・浜野カズシ)

 島根県邑南町出身で大阪市在住の鍼灸(しんきゅう)師、野田峻也さん(31)は、音楽アーティスト専門に活動する。これまでに300組以上に施術してサポートする一方、新型コロナウイルス感染拡大後は古里をさまざまな形で応援する。 (糸賀淳也)

 裏方として音楽に携わりたいと考えていた矢上高校在学中、好きなバンドのメンバーがツアー中にぎっくり腰になったことを知った。「アーティスト専門の鍼灸師はいない」と、大阪の専門学校に進んで鍼灸を学んだ。卒業後は若手バンドのツアーやロックフェスで出演者やスタッフに鍼灸を施し、より良いパフォーマンスに貢献。次第に仕事の依頼が増えた。

 2018年には株式会社MEGAPAN(メガパン)を設立。MAN WITH A MISSION(マンウィズアミッション)、BLUE ENCOUNT(ブルーエンカウント)、クリープハイプなど、若年層に人気のバンドに付いて全国を回り、「年間300日くらいは家に帰っていなかった」。

 ところが、20年に新型コロナでライブの自粛が相次ぎ、3~5月は全く仕事がなくなった。仕事への影響は大きかったが、この機会に、思いを抱き続けていた古里に対して「できることをやろう」と、矢上、大田両高校にマスクを寄付。恩師が島根県高校野球連盟の役員を務めていたことから、「夏の甲子園」中止に伴い開催された県高校夏季野球大会に優勝旗を贈ることも思いつき、実行した。

 ライブができない山陰のライブハウスにも働き掛けてグッズ販売に取り組み、スタッフらを招いて大田市の寺でライトアップイベントも初企画した。活動の機会を失ったスタッフが輝ける場をつくり、新たなつながりも生まれた。「アーティストほどの力はなくても、自分が動いて何かしら力になりたかった」と振り返る。

 コロナの収束は見通せないが、次第にライブでの仕事は戻ってきた。音楽を通じて山陰と全国をつなげようとの思いは変わらない。「島根や邑南に来たいと思う人を増やしたいし、地元の人には住んでいてよかったと思ってもらいたい。山陰のライブハウスにも足を運んでもらいたい」