防災リュックの中身、家にある備蓄品、確認は済んでいる?
防災リュックの中身、家にある備蓄品、確認は済んでいる?

 直近で豪雨や落雷などの自然災害が頻発し、防災リュックの準備やローリングストックの活用など“防災のための備蓄”に引き続き関心が寄せられている。これらを備える心理的ハードルは高く「やっと重い腰を上げた」という声や「特別な準備が必要」というイメージも根強くある状況。“完璧主義”な思考になりがちなところを、少しでも和らげてくれそうなのが「ちょ備蓄」という考え方だ。普段の生活のなかで手軽に始められることを前提としていて、日常の買い置きだけで備蓄必需品が揃っている場合もあるという。そのマインドやテクニックについて専門家に話を聞いた。

【画像】カップ麺が様変わり! 救援物資で足りないものを補う、究極の防災食とは?

■「“備蓄は特別なもの”という思い込みがある」

 「ちょ備蓄」とは、『サントリーの天然水』の防災備蓄啓発活動として始まった考え方で、「いつも使っているものをちょっと多めに買っておく」「子どもが好きなお菓子をちょっと買い足しておく」「自宅のちょっとしたスペースを探してみる」など、普段の生活において手軽に始められることを前提としている。

 たとえば、備蓄必需品としてあげられる「飲料水」。サントリーの調査によれば「備蓄には2Lの大容量ボトル」と考える人が7割以上いたが、持ち運びや飲み切りを考えると、550mlの小容量タイプも有効。「いつも購入している日用品や、普段から好んで食べている食料品も、災害時には十分役立つ「備蓄」になります」と防災心理学者・木村玲欧氏は解説する。

「実際に「普段のものがあって助かった」という声も多くあります。しかし今回の調査結果から、“備蓄は特別なもの”という思い込みがあり、日常生活と防災備蓄を切り離して考えてしまう傾向が見られました。そのため、実際よりも「自分は備蓄ができていない」と感じる人が多い。また、「備蓄は完璧でないといけない」という「ゼロヒャク思考」や、心理的ハードルの高さが行動の妨げになっています」(木村氏)

 “備蓄は特別なもの”という思い込みが、日本における防災備蓄の課題になっている。「日常の買い物の中で「ちょっと備蓄を意識してみる」ことを続けることで、自然と備蓄が積み重なっていきます。備蓄への考え方を変え、無理なく行動を続けていくことが、社会全体の防災備蓄力を底上げすることにつながります」(木村氏)。

■「備蓄水は日常使いしてOK」緊急時に焦らない、テクニック5選

 「ちょ備蓄」の考え方で、いかに防災備蓄の意識を保つことができるのか。SNSでも発信されているテクニックを紹介。

(1)備蓄水は日常使いしてOK
買い置きしていた水が底をつき、ついつい備蓄用の水に手を出してしまうことも。つい「日常用」「備蓄用」と分けて考えてしまうが、「きっぱり分ける必要はない。無くなったら、ちょっとずつ買い足せばよい」(サントリー)。

(2)食べ慣れたお菓子を「もう1個」買っておく
防災リュックなどに入っている食料品は、食べ慣れていないものばかり。食べられるものがない事態を避けるため、お菓子を買うときはもう1個多めに買っておくとよい。

「特別なものや、食べ慣れていないものを備蓄しても、いざという時食べられないことも。家族の好きなものや、食べ慣れたものがもしもの時も安心です」(防災収納インストラクター・松永りえ氏)

(3)収納スペースのスキマを活用
防災グッズや食料品は、一箇所にまとめると管理はしやすいものの、地震などで取り出せなくなるリスクがある。「家に備蓄できるスペースなんてない。そう思うかもしれませんが、備蓄は、分散させるのが◎。家じゅうの小さなスキマを活用しましょう」(防災収納インストラクター・松永りえ氏)。

(4)ストックの備蓄量を把握
普段、何気なくストックしている食料品や日用品。確認すると、実は3日分ほどの備えになっているということも。「慌てて買いにいく前に、在庫を確認してみましょう」(防災収納インストラクター・松永りえ氏)。

(5)日常の買い置きで、「緊急買い」を防ぐ
食品や日用品の買い置きは、急な体調不良など、買い物に行けないもしもの時にも役立つ。多めに買うことはムダ遣いではなく、「普段の日用品を少し多めに買い置きする」という行動も立派な備蓄。

「過去には「備蓄ができていない」という事実や、「自分は備えていないのでは」という不安から、「緊急買い」に走ってしまい社会が混乱することがありました。備蓄は生きるために必要なだけでなく、こういった不安や焦りからの行動に走らないための心の安全や余裕も与えてくれます」(防災心理学者・木村玲欧氏)

■「どんどん使ってどんどん買い足していくこと、その”買い足す”までが備蓄行動」

 緊急時に慌てて買うのでは、混乱を招くばかり。いかに備蓄への認識を変えることができるのか。

 同社の調査で「備蓄品」について聞くと、76.3%とおよそ4人に3人が「備蓄品とは保管しておくべきものだと思う」と回答。備蓄品は「必要になるタイミングが分からずもったいないと思う」と感じる人が約6割(58.7%)いた。

 この結果から、「備蓄は「備蓄品」として保管して「日常のもの」と切り離して使用していることが考えられます。しかし、こうした扱い方では備蓄への意識がかえって低くなってしまう」と木村氏。

「本来、備蓄品は日常的に使うものであって、どんどん使ってどんどん買い足していくこと、その買い足すまでが備蓄行動です。特別な行動から日常の一部に、特別に保管するのではなく普段使いのものを回していく、というように備蓄に対する意識を変えていくことが必要です。大切なのは、「ただ備える」だけではなく、「使って補充する」という習慣です。いつもの日常品や食品を少し多めに買い、使ったら買い足す。このシンプルな繰り返しこそが実効性のある備蓄につながります」(木村氏)